最新記事

北朝鮮

「ヒラリー叩き」で透けて見えた苦境

核を手に入れた北朝鮮に「脅しのカード」はもうない──クリントン国務長官への口汚い罵倒は負け犬の遠吠えだ

2009年7月24日(金)17時03分
ダニエル・ドレズナー(米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院教授)

ASEAN地域フォーラムでタイのカシット外相(左)と握手するクリントン(7月23日) Pool-Reuters

 タイのプーケットで開催されたASEAN(東南アジア諸国連合)地域フォーラムは、おいしいブログのネタが満載だ。

 7月23日には、北朝鮮とアメリカの非難合戦がさらにエスカレート。北朝鮮外務省はヒラリー・クリントン米国務長官に異例の個人攻撃を仕掛け、長官の「粗暴な発言」は「知性の欠如」を物語っていると罵倒した。

 この口論のきっかけは、おそらくニューデリー訪問中のクリントンが20日にABCテレビとのインタビューで語った次の発言だ。「(北朝鮮は)注意を常に注意を引きたがる。幼い子供や聞き分けのないティーンエージャーを育てた経験のある母親の立場から言えることがあるとすれば──ほしがるものを与えてはいけない。彼らにその価値はない」

 これに対して北朝鮮外務省のスポークスマンは、「クリントン夫人は国際社会の基本的エチケットも知らないと言わざるをえない」と発言。「ときに小学校の女子生徒のように、ときに買い物をする年金生活者の老婆のように見える」とこき下ろした。

 一方、クリントンは27カ国が参加したASEAN地域フォーラムで北朝鮮の国際的孤立をアピール。6カ国協議の参加国であるロシア、中国、韓国、日本の外相と次々に会見し、多くの国の代表から支持の声明を引き出した。

オバマ政権は意外にタカ派

 以上の情報から、思いついたことを列挙してみる。

1) 私がヒラリーの娘のチェルシーだったら、今ごろうんざりしているはずだ。彼女はそれほど「聞き分けのない」子だったとは思えない。ということは、ひょっとしてヒラリーは別の子供を育てた経験が?(ゲフゲフっ......失礼!)。

2) 「国際社会の基本的エチケットも知らない」と他国を非難する北朝鮮は、相当に面の皮が厚い。

3) オバマ政権の対北朝鮮政策に比べると、ブッシュ前政権がかなりのハト派に見える。ディック・チェイニー副大統領やジョン・ボルトン元国連大使は、現政権のほうが居心地がよさそうだ。

4) ブッシュ政権はイランとの対話を拒否する理由として、対話に応じればイランの現体制にほうびを与えることになると主張した。一方、クリントンは6カ国協議についてこう発言している。

「北朝鮮との対話の窓は開かれている。ただし、中途半端な措置には興味がない。北朝鮮が交渉の席に戻るだけで、ほうびを与えるようなことをする気はない」

 この姿勢はブッシュ政権の対イラン政策とどう違うのか。確かに両者の間に差はあるが、オバマの支持者が言うほど大きくない。

5) 結局、最後はどうなるのか。あくまで個人的推測だが、現状のままで最も居心地が悪いのは北朝鮮だろう。経済制裁や取引停止が効果を上げていると仮定すれば、北朝鮮は世界をいくら挑発しても何も得られないことになる。兵器級の核物質が多少増えるだけだ。

 その効果はゼロではないが、決して大きくない。すでに北朝鮮は他国の侵略に対する核抑止力を手に入れている。だから今さら「核武装するぞ」と脅しても、さほど効果は期待できない。それに核技術を他国に売れなければ、経済的な利益も得られない。

 つまり、北朝鮮は絶望的な孤独にさいなまれながら、八方塞がりの状態でのたうち回るしかない。

 この診断はどこか間違っているだろうか。

Reprinted with permission from Daniel W. Drezner's blog , 23, July 2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIとの合弁設立が大幅遅延

ワールド

韓鶴子総裁の逮捕状請求、韓国特別検察 前大統領巡る

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ビジネス

首都圏マンション、8月発売戸数78%増 価格2カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中