最新記事

朝鮮半島

韓国改革派大統領の海図なき船出

人権派弁護士から韓国政界のトップへ──盧武鉉は就任直後から「北」の核危機という難問に直面している

2009年5月26日(火)16時28分
ジョージ・ウェアフリッツ(東京支局長)、李炳宗(ソウル)

世代交代 国会議事堂での大統領就任式に臨む盧武鉉(03年2月25日)。インターネットを駆使する世代からの支持を受けて当選した Reuters

 深夜、韓国有数の港湾都市の釜山で、警察のパトロールを避けて走る車があった。87年のことだ。

 ハンドルを握っていたのは人権派弁護士の盧武鉉(ノ・ムヒョン)。市内の数カ所で、反政府デモが行われていた。

 同乗者は、盧がかつて弁護を行った学生運動家の李鎬チョル(イ・ホチョル)。李は反政府活動で投獄されたとき、拷問を受けたことがある。車のトランクには、80年に政権を握った全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領(当時)の退陣と民主化を求める小冊子が何千部も隠してあった。盧と李の神経は緊張で張り詰めていた。

 「警察に見つかったら逮捕されていただろう」と、李は言う。

 盧と同世代の多くの韓国人は長年、民主主義の実現のために闘ってきた。盧も政治活動に献身してきたが、その苦労が報われたのは最近のことだ。

 12年間で6回の選挙に出馬し、4回落選。1年前でさえ、政界での盧の知名度は低かった。だが与党・新千年民主党の大統領候補を決める党内選で、56歳の盧は予想外の圧勝を収めた。

 昨年12月の大統領選で、盧はインターネットを駆使する朝鮮戦争後生まれの世代を味方につけ、保守的な対立候補に勝利。2月25日に77歳の金大中(キム・デジュン)から大統領の座を引き継ぎ、韓国政界の世代交代を実現させた。

 盧は国内の改革に意欲を燃やしているが、北朝鮮の核開発危機への対応に追われそうだ。北朝鮮が強硬姿勢を取るなか、積極関与策を続けるべきだという盧の主張は逆風にさらされ、米韓関係もぎくしゃくしている。

 アメリカは、北朝鮮との緊張緩和に向けて盧の助力を得たいところだろう。イラクへの武力行使に踏み切ってから、北朝鮮が無謀な動きに出ると面倒なことになる。

外交経験の不足が弱点

 情報筋は、北朝鮮はミサイル発射実験や地下核実験などに踏み切りかねないとみている。北朝鮮は相変わらずアメリカとの直接交渉を求めているが、米ブッシュ政権はいっさいの妥協を拒んでいる。下手をすると、盧は傍観者の立場に追いやられかねない。

 盧は大統領選中、ジョージ・W・ブッシュ米大統領の北朝鮮に対する強硬姿勢を批判し、反米派の学生の取り込みに熱心だった。だが、本誌が先週行ったインタビューでは慎重な発言が目立った。「韓国にもアメリカにも強硬な人はいるし、極端に走る人もいる」  

 盧はインタビューで米外交の「単独行動主義的側面」に言及したが、具体的な説明を求めると、しばらく口をつぐんだ後でこう語った。「この話題は避けたほうがよさそうだ。あなたがたにもお考えはあるだろうが、それを確かめるようなことはしたくない」

 盧は一呼吸おいて、こう続けた。「私は妻をとても愛しているが、不満な点がないわけではない」

 うまい比喩だが、外交という修羅場を切り抜けるには、もっと勉強が必要だ。外交に弱いという評判は、一刻も早く返上したほうがいい。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

訪日客の売り上げ3割減 6月、高島屋とJフロント

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB期間を8月1日まで延長 

ワールド

トランプ政権、不法移民の一時解放認めず=内部メモ

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に失望表明 「関係は終わって
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 10
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中