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朝鮮半島

韓国改革派大統領の海図なき船出

2009年5月26日(火)16時28分
ジョージ・ウェアフリッツ(東京支局長)、李炳宗(ソウル)

 盧は当選直後、在韓米軍撤退の可能性について口を滑らせた。ワシントンでは、盧が左派寄りの社会活動家とされていることも懸念材料となっており、同盟国として韓国をあてにできるのかという疑いの声もある。

 双方が相手をよく知らないことが、米韓関係がぎくしゃくしている一因だ。盧は訪米経験がないし、経歴は美化されがちで本当の姿は謎に包まれている。貧しさに負けずに成功した人物とか、無私の社会派弁護士といったレッテルでは、盧の本質は見えない。側近でさえ、盧がどんな大統領になるのか見当がつかないというのが本音らしい。

 盧に講義したこともある高麗大学行政科の威成得(ハム・ソンドゥク)教授は、盧はビル・クリントン前米大統領に似て、現実離れした構想をいだきがちだと言う。「試行錯誤を繰り返すだろう。小さなミスはいいが、大きなミスは犯さないでほしい」
 
 盧は子供のころから成功を夢見ていた。貧しくて大学に行けなかった彼は、猛勉強の末に司法試験を突破。78年に弁護士になった。同郷の女性と結婚し、税法専門の弁護士として成功した。マイホームを購入し、ヨットを楽しむようになり、夜は高級クラブに通ったこともある。

人権のために闘う決意

 盧の人生に大きな影響を与えたのは、弁護士で人権活動家の金光一(キム・クァンイル)だ。金は81年、自分が依頼された仕事を代わりに引き受けてほしいと盧に求めた。

 このあたりの事情に詳しい友人によると、金は政治に無関心な盧を批判したという。「『おまえが求めていることも理解できないわけではないが、こんな生活をしていては駄目だ』と、金は盧をさとした。これが盧の転機になった 」

 盧が金から引き継いだのは、反政府活動に携わったとして逮捕された釜山大学の学生たちの弁護だった。韓国中央情報部の工作員は拷問を行って自白を強要したと、被告の一人だった李鎬チョル(イ・ホチョル)は言う。

 盧は裁判で、社会的成功を収めた多くの韓国人が無視してきた事実に直面させられた。韓国が成し遂げた経済発展の裏には、政治批判を認めない全体主義体制があるという現実である。

 裁判には負けたものの、盧は税法関係の仕事を捨て、人権のために闘う道を選んだ。その後10年間、労働者に無料法律相談を行うセンターの設立や、民主化を求める学生運動の支援に奔走した。

 87年に全斗煥政権が民主化を受け入れた後、盧は88年に釜山から国会議員選挙に出馬して当選した。

 盧の政治家人生は、決して順調なものではなかった。90年代には、選挙に勝てない苦しみも十分に味わった。

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