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対イラン交渉オバマのジレンマ

米イスラエル首脳会談の裏で両政府の温度差が浮上。オバマがイラン核問題で交渉期限を区切りたくない理由とは

2009年5月19日(火)18時04分
ダン・エフロン(ワシントン支局)

温度差 ホワイトハウスで会談するオバマ(右)とネタニヤフ(5月18日)。意見の一致を強調したが Larry Downing-Reuters

 バラク・オバマ米大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は18日、3月にネタニヤフ政権が発足してから初めての首脳会談をワシントンで行った。終了後、2人は記者団に対し、パレスチナ和平交渉を前進させる必要があることなど大半の点で合意したと説明。特に、イランの核兵器保有を阻止することで意見が一致したと強調した。

「この問題についてわれわれは意見が近いのではない。完全に一致している」と、ネタニヤフはホワイトハウスでの共同記者会見で語った。

 しかしイランとの対話の方針をめぐり、会談の前から食い違いが見えていたと双方の関係者は語る。なかでも交渉に明確な期限を設けるかどうかで意見が分かれた。

 イスラエル側は、イランに核兵器保有の野望を思いとどまらせることはできないとオバマが認めるまでに、どれだけの時間を交渉に費やすつもりかを知りたがっている。イランが交渉を何カ月も引き延ばす一方で、濃縮ウランの製造を進めて核開発のペースを上げることを、ネタニヤフは懸念しているという。

 政府の意向に詳しい2人のイスラエル人によると、ネタニヤフはどのような交渉であれ3カ月以内に進捗を検討する必要があり、イランが譲歩の姿勢を明確に示さなければ、制裁強化も視野に入れるべきだと考えている。

期限設定は「失敗への処方箋」

 アメリカ側はもっと微妙だ。ある政府高官によると、オバマはイランが交渉を引き延ばそうとするかもしれないことはわかっている。しかし同時に、交渉期限を区切ることによって、30年にわたって緊迫してきた対イラン関係を再建する努力が損なわれかねないとも考えている。

「進展を待つ時間はあまりない。同時に、彼(オバマ)はわざとらしい期限を持ち出すつもりもない」と、この高官は本誌に語った(現在イランは特に繊細な話題になっているため匿名希望)。オバマは共同記者会見で、「年末までに(交渉の展望について)評価が出るだろう」と語っている。

 同じ政府高官は、(明確で迅速な進展を期待するなら)交渉はイランの真の意思決定者と行う必要があると語った。つまり最高指導者アリ・ハメネイ師だ。「合意したことを実行できるとは限らない相手と時間稼ぎの交渉をするのではなく、この問題に判断を下す権限のある相手と確実に有益な議論をしたい」。オバマからの対話の呼びかけに、イランはまだ応えていない。

 交渉期限をめぐるジレンマは、米上院外交委員会が5月初めに発表したイランに関する報告書も詳しく述べている。それによると米政府内には厳しい期限を求める意見もあれば、期限を区切ることは「失敗への処方箋」になるだろうという見方もある。

 反対派は「核兵器を獲得した場合の代償をイランは払いきれないことと、アメリカがイランを地域の重要なプレーヤーと認めていることを、イランに納得させるには時間がかかるだろう」と考えていると、報告書は指摘する。

 今回の首脳会談に実体がなく問題をはらんでいることを強調するような出来事があった。オバマとネタニヤフがまさに向き合っている頃、ワシントンのイスラエル大使館はもぬけの殻だった。爆破予告が届いていたのだ。

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