最新記事

人種問題

黒人射殺、無罪で暴動はでっち上げ?

判決後、抗議デモが全米で過熱していると一部のメディアは報じているが、実際は「民衆の暴走」には程遠い

2013年7月16日(火)18時25分
デービッド・ウィーゲル

常識ライン? ニューヨークのタイムズスクエア周辺でも抗議デモが行われたが(7月14日) Adrees Latif-Reuters

 無罪となったら、暴動が起きるかもしれない――そんな懸念が漂うなか、米フロリダ州で話題の裁判の判決が下された。

 被告は昨年2月末に黒人の高校生トレイボン・マーティンを射殺したジョージ・ジマーマン。同州サンフォードの裁判所は13日、正当防衛の主張を認め、ジマーマンに無罪の評決をした。

 ジマーマンは事件当初、マーティンを不審者と思い込んで追跡し、もみ合った末に射殺したと供述。警察も彼の正当防衛の主張を受け入れて釈放したが、マーティンが黒人だったことから、事件は人種差別問題に発展した。

 米ニュースサイトのドラッジ・リポートは、判決後に起きた抗議デモの写真をトップページに掲載し、「怒りに揺れるアメリカ」というイメージを生み出した。しかしこの写真を注意して見ると、周囲の建物が燃えているわけでもなければ、警官めがけて石や瓶が投げつけられてわけでもない。

 英デイリー・メール紙の14日付の電子版も、「判決から2日目の夜も、アメリカは怒りに突き動かされている」という見出しを掲載したものの、記事の中では下記のように記している。


 裁判が行われたフロリダからアトランタ、ワシントン、ニューヨークまで、各地で抗議デモが行われたが、大半は平和的なものだった。ロサンゼルスでデモ隊が高速道路を一時占拠したり、ニューヨーク市内のタイムズスクエアに数千人が結集して1時間近く道路が通行止めになったりはしたが。


 高速道路を占拠して機能停止に陥らせたとしても、ドラッジ・リポートや他のメディアが想定していたような暴動には程遠い。

 しかし、ドラッジ・リポートなどが伝える情報しか見聞きしていなかったら、黒人暴動は頻繁に起きているのに被害者が黒人という理由でメディアに無視されていると勘違いしかねない。

 判決後、警察が都市部での抗議行動が過熱しないよう手を打ったのが功を奏した面もある。しかし実際、状況が悪化したケースがほとんどなかったのは驚くべきことだ。

 これまでは何かにつけて、「もし〜がうまく行かなければ、都市部の黒人市民は暴動を起こすだろう」と言われてきた。08年の米大統領選では、「バラク・オバマが負けたら暴動が起きるかもしれない」と言われたし、12年にも同様の懸念が指摘された。

 しかし今回通行止めを引き起こした抗議活動は、国を引き裂くような怒りの行動とは違う。今回パニックを煽ろうとしている人々がそう思わせようとしているだけだ。

© 2013, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、カナダに35%の関税 他の大半の国は「一律15

ワールド

ブラジル大統領、米50%関税に報復示唆 緊張緩和へ

ワールド

カナダ、ASEANとのFTA締結目指す 貿易多様化

ワールド

ゼレンスキー大統領、物資供給や対ロ制裁強化巡り米議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中