最新記事

米大統領選

歴史を作るオバマ2期目のシナリオ

2012年11月7日(水)13時31分
アンドルー・サリバン(政治・メディアコラムニスト)

 84年のレーガン再選を可能にしたのは景気の回復とインフレ率の低下だったが、彼を伝説的な存在に押し上げたのは2期目の成果だ。成長の持続と東西冷戦の終結、86年の税制・移民制度改革が、大統領レーガンの名を不滅のものにした。

 レーガン政治はアメリカを大きく変えた。税制改革による所得税率の幅は今も、そしてオバマによる最高税率引き上げが実現してもレーガン時代の範囲に収まる。また、レーガンの移民制度改革はアメリカ社会の民族構成を、ひいては有権者の構成を変えた。

 そして後継者ジョージ・H・W・ブッシュ大統領の下でソ連・東欧圏が崩壊し、レーガンの遺産は完成された。もちろんレーガンがすべてを独力で成し遂げたわけではない。だが変化を呼び込んだのは彼自身だ。

 オバマの1期目はレーガンのそれにとても似ている。早々に景気刺激策と国民皆保険という2つの大きな勝利を収めたが、それが中間選挙では重荷になり、レーガンのときよりも大きな敗北を味わった。そして野党はずっと非妥協的になった。

 レーガンは最初の大きな成果である減税法案の採決で、上院で民主党議員37人の賛成票を獲得できた。一方、オバマ政権の最初の成果である景気刺激策の場合、共和党議員の賛成票は下院でゼロ、上院でも3。今のアメリカが二極化している証拠だ。

 とはいえ中間選挙後もオバマは実績を築いてきた。アルカイダを弱体化させ、ジョージ・W・ブッシュが夢見たアラブ世界の民主革命も始まった。08年の危機を招いた金融業界への規制強化やクリーンエネルギーへの積極的な投資もある。自動車の燃費基準を厳しくし、輸入石油への依存も減らした。

 あと4年の時間があれば、オバマはもっと先まで行ける。第1に、国民皆保険をひっくり返すことは不可能になる。65年にメディケア(高齢者医療保険制度)が成立して以来、アメリカの医療制度における最大の変化が実現するわけだ。

目前に迫る「財政の崖」

 再選後のオバマは30年来の歳入と歳出の不均衡に終止符を打つだろう。今年の12月末までに民主党と共和党が合意しなければ、防衛関連支出と社会福祉給付が自動的に削減され、ブッシュ減税措置も終了するいわゆる「財政の崖」が訪れる。

 オバマは先に財政赤字削減のための超党派特別委員会の提案を受け、歳出削減の幅を大きくし、増税を最小限にする方向の解決策を受け入れている。だが共和党はいかなる増税案も突っぱねてきた。

 これでオバマが再選を決めれば、共和党も増税絶対反対の姿勢を維持しにくくなる。妥協を拒めば「財政の崖」を許すことになるからだ。

 それでも共和党は妥協しないかもしれない。11月の下院選で多少の議席を失っても、残った議員は選挙に強く、より非妥協的なメンバーになるからだ。だがオバマに2度目の大きな敗北を喫した後では、さすがの超右派も妥協の重要さに気付くのではないか。

 あるいは国防費削減の危機感が彼らを動かすかもしれない。実はそれこそがオバマの待ちに待った瞬間だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

プーチン氏、5月に訪中 習氏と会談か 5期目大統領

ワールド

仏大統領、欧州防衛の強化求める 「滅亡のリスク」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中