最新記事

健康

早死にするのはどのスポーツ?

脳にダメージを受けやすいアメフト選手は短命だという仮説を検証してみると意外な事実が

2012年10月5日(金)16時09分
ダニエル・エングバー

危険と思いきや メジャーリーガーより長生きという意外な結果の理由は? Jeff Haynes-Reuters

 重量級の男たちがぶつかり合う迫力満点のアメリカンフットボール。プロの選手が現役中に受けるダメージはじわじわと引退後の体をむしばむのではないか。ファンでなくても気になるところだ。
 
 スポーツ専門チャンネルESPN傘下の情報サイト「グラントランド」のライター、ビル・バーンウェルがプロのアメフト選手と野球選手の寿命を比べた独自調査の結果を発表した。

 結果は意外なものだった。59〜88年の間に5シーズン以上プレーした元NFL(全米プロフットボールリーグ)の選手3088人のうち、既に死亡した人は12.8%。一方、同時期に現役だった元野球選手1494人の死亡率は15.9%だ。

 この調査以前に、米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が発表した公式のデータがある。こちらは引退したNFLの選手と同じ年齢・人種グループの非アスリートの死亡率を比較したもので、元選手の死亡率は普通の人の半分程度だった。

 プロの選手は高収入で、専門家の下でトレーニングを積み、栄養指導を受け、最高クラスの医療サービスを受けている。こうした点の有利さが、激しい試合に伴う健康上のリスクを上回るのだろう。

 他の競技でも、元選手は一般の人より長生きする確率が高いことが分かっている。しかし、アメフト選手は試合中に脳震盪を起こしやすい。これが引退後の健康にどう影響するか、一般人と元選手を比べたNIOSHの調査では分からない。

 実はNFLの元選手の一団が今、オーナー側を相手取り、脳損傷の長期的影響を隠してきたとして訴訟を起こす準備を進めている。バーンウェルの調査で逆の結果が出ていたら、原告団にとって有利な材料になり得た。

 だが実際には、元野球選手のほうが短命だった。この結果にはバーンウェル自身も面食らった。紳士のスポーツとされる野球のほうが激しい肉弾戦を伴うアメフトよりも、長期的には体に悪いのだろうか。

 単発の事故よりも、長期にわたって蓄積される疲労や故障のほうが引退後の体を徐々にむしばむのかもしれない。アメフトでは1試合中に何度も頭を打つことがあるが、現役期間はおおむね短く、平均3.5年だ。しかも1シーズンの試合数は16〜20。野球でけがをする確率は低いが、試合数は10倍もあるし、現役期間も平均5.6年だ。


喫煙や人種も影響する

 競技そのものとは無関係の要因が働いている可能性もある。例えば喫煙だ。09年に米国医師会報に発表されたデータでは、NFL選手の喫煙率は0.2%。同年代の非アスリートの喫煙率30.5%に比べて格段に低い。一方、03年の調査ではメジャーリーガーの約36%が、かみたばこまたは嗅ぎたばこの常用者だった。

 喫煙と高血圧には関連性があるから、NFLの選手が野球選手よりも総じて大柄で体重が重いのに、高血圧の発症率は野球選手の半分であることは、これで説明できそうだ。しかもアメフト選手と野球選手では、プロ入りする前から喫煙率に差がある。カリフォルニア州内の大学の代表チームのかみたばこ常用率を調べた調査では、野球選手の52%が常用しているのに対し、アメフト選手は26%だった(スポーツ界全体で喫煙は禁止されつつあるが、メジャーリーグはインタビュー中に吐き出さないなどの条件付きでかみたばこを認めている)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、香港の火災報道巡り外国メディア呼び出し 「虚

ワールド

26年ブラジル大統領選、ボルソナロ氏長男が「出馬へ

ワールド

中国軍機、空自戦闘機にレーダー照射 太平洋上で空母

ビジネス

アングル:AI導入でも揺らがぬ仕事を、学位より配管
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中