最新記事

米外交

駐ロシア米大使の過激なツイッター外交

ツイッターで夜遅くまで独裁批判を発信するマクフォール大使は民主活動家の人気者だが

2012年7月20日(金)14時10分
アンナ・ネムツォーワ(モスクワ)

反独裁 マクフォール大使はプーチンの目の上のたんこぶ Sergei Karpukhin-Reuters

 今年1月にロシアに着任したマイケル・マクフォール米大使はスタンフォード大学の学者出身。自ら「外交官としての話術はまだ完璧ではない」と語る。

 マクフォールの発言は既にロシア政府を怒らせ、外交のプロとして失格との批判を浴びた。だが独裁的な政治手法に反対する姿勢から、ロシアの民主活動家の間で彼の人気は高い。

 マクフォールはオバマ米大統領のために米ロ関係「リセット」政策を構築した立役者の1人。アメリカはこの政策で、何年もの間に生じた両国間の緊張を解消することを狙った。

 雪解けは進んでいるように見えた。だが今年5月、ウラジーミル・プーチンが大統領に再任し、モスクワで大規模な反政府デモが起きると風向きが大きく変わった。マクフォールは着任早々、難しい状況に直面させられた。

 彼がロシアの民主活動家の訪問を受けたのは、着任後1カ月もしないときのこと。ロシアの体制側メディアは、マクフォールは反政府勢力と陰謀をめぐらしていると非難した。

 それ以来、マクフォールに対するプーチン派の攻撃は激化する一方。マクフォールは電話が盗聴されたり、ツイッターと電子メールが不正工作の標的になっている可能性があると述べた。

 マクフォールは5月、ロシアがキルギスに賄賂を贈って同国内の米軍基地を閉鎖させようとしたと発言し、さらに緊張が激化。ロシア外務省は、アメリカも賄賂を贈ったと反撃した。

 マクフォールの率直さはロシア政府を怒らせたが、民主活動家と若者には称賛された。彼はツイッターを利用して、時には夜遅くまでメッセージを発信している。結束の固い反政府勢力の人々の間で、マクフォールはネット上のスターとなり、真の21世紀型外交官となった。

 マクフォールはロシア政府の非難に「対応する必要はない」と言ったが、放置し続けるわけにはいかないだろう。プーチンは反政府勢力指導者の抑圧のために強硬姿勢を取り始めた。内戦状態を呈するシリア問題への対応でも、アメリカとロシアの意見の食い違いが目立つ。

 先日、大規模な反プーチン集会が開かれた際、ツイッターでマクフォールの「つぶやき」はあまり聞かれなかった。だがマクフォールのファンも批判者も、彼の沈黙が長く続くはずはないという点では同意見だった。

[2012年6月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、カナダに35%の関税 他の大半の国は「一律15

ワールド

ブラジル大統領、米50%関税に報復示唆 緊張緩和へ

ワールド

カナダ、ASEANとのFTA締結目指す 貿易多様化

ワールド

ゼレンスキー大統領、物資供給や対ロ制裁強化巡り米議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中