最新記事

米大統領選

同性婚を支持したオバマの大勝負

国論を二分する同性婚で立場を鮮明にしたことは大統領選で吉と出るか凶と出るか

2012年6月14日(木)14時57分
大橋希(本紙記者)、ハワード・カーツ(ワシントン支局長)

米大統領で初 テレビで「カミングアウト」したオバマ(5月9日) Stephen Lam-Reuters

 アメリカ史上初の黒人大統領は、同性婚を公に支持した初の大統領にもなった。オバマ大統領は先週、ABCテレビのインタビューでこう語った。「同性カップルも結婚できるべきだと思う。私が思い切ってこの考えを表明することは、個人的に重要だという判断に至った」

 オバマが同性愛者に共感し、同性カップルに法的保護を与えることに賛成していることは以前から明白だった。昨年2月には、「結婚は男女間のみのもの」と定めた婚姻保護法は「違憲」との考えを示した。同9月には、同性愛者であることを公言して軍務に就くことを禁じた規定を撤廃した。

 しかし同性婚はアメリカの世論を二分する大問題。各種調査でも賛成は50%前後で、反対と拮抗する。ニューヨークなど6州と首都ワシントンで同性婚が認められている一方、約30州で禁止されているのが現状だ。国民の多くにそっぽを向かれるリスクを冒してまで、支持を明言することをオバマは避けていた。

 流れを大きく変えたのは、バイデン副大統領の発言だ。バイデンは5月6日にNBCのテレビ番組で、同性と結婚する人も異性と結婚する人も「同じ権利を持つ。すべての市民権と市民の自由を享受できる」と述べた。

 ホワイトハウス関係者としてはこれまでで最も踏み込んだ発言に、「ではオバマはどうなのか」という圧力が強まった。実際には、オバマは9月の民主党大会直前に同性婚支持を発表する予定だったが、バイデンの発言で前倒しになったという。

黒人有権者の離反が心配

 これで同性婚が、秋の大統領選の争点として浮上した。共和党の大統領候補指名を確実にしているロムニーは「結婚は男女間のもの」と同性婚反対をあらためて表明。オバマとの対立を印象付けた。ただし「非常に微妙で、繊細な問題だ。人によってさまざまな見方がある」とも語り、声高な批判は避けた。

 その背景にはここ数年で、同性婚への理解が国民の間で進んでいることがあるだろう。ワシントン・ポストの調査では、同性婚合法化を支持する割合は06年には36%だったが、今年3月には52%に上っている。

 今のところ、オバマの発言の選挙への影響ははっきりしない。「ゲイの支持者に喜んでもらえるのはいいことだ。だが、(同性婚支持率が比較的低い)アフリカ系アメリカ人が離れてしまうのは困る」と、ホワイトハウスに近い関係者は本誌に語った。「若い有権者が歓迎してくれるのはいいが、信仰心のあつい中南米系を締め出すことになるのは好ましくない。誰も、オバマでさえも先が読めない状況だ」

 数字を見る限り、オバマ支持のアフリカ系アメリカ人が今回の件で共和党支持に変わる心配はなさそうだ。ピュー・リサーチセンターの4月の調査では彼らの同性婚反対率は49%で、08年の63%から大幅に減っている。多くのアフリカ系アメリカ人にとっては同性婚問題より、黒人大統領の存在のほうが大きな意味を持つのだろう。

 何事も「言うは易し」だし、特に選挙の年にはそうだと指摘する向きもある。同性婚合法化に向けてオバマ政権が具体的に動かなければ、歴史的発言に大喜びした支持者をがっかりさせるだけかもしれない。

[2012年5月23日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾総統、強権的な指導者崇拝を批判 中国軍事パレー

ワールド

セルビアはロシアとの協力関係の改善望む=ブチッチ大

ワールド

EU気候変動目標の交渉、フランスが首脳レベルへの引

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中