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アジアはオバマに見向きもしなかった

アジア歴訪中のオバマの孤独はアメリカの地位低下を露呈した。原因はウォール街という負のイデオロギーだ

2010年11月16日(火)17時38分
エリオット・スピッツァー(前ニューヨーク州知事)

傷心アイス 行く先々でつれなくされたオバマ(11月14日、思い出の鎌倉で) Jim Young-Reuters

 アジア「物乞い」ツアーから帰国したバラク・オバマ大統領にとって、今回の外遊はアジア諸国のつれない態度に振り回された孤独な旅路だった。この旅はアメリカにとって、中間選挙以上に重要な意味をもつ出来事だったのかもしれない。新たな世界秩序とアメリカの凋落が明白になったからだ。

 オバマのアジア滞在中に、アメリカが軽蔑され、拒絶されていることを示す事件が3つ続いた。まず、韓国がアメリカとの自由貿易協定(FTA)批准を事実上拒否。アメリカのアジア市場への輸出促進の鍵を握る協定だが、その内容はありふれたシンプルなもの。当然、事前に韓国の合意を取り付け、オバマの韓国滞在中に米国内の雇用創出戦略の目玉として発表されると誰もが思っていた。

 第2の事件は、追加の量的緩和によって市場に膨大な資金を放出するというFRB(米連邦準備理事会)の発表に対して、世界中のほぼすべての経済大国から批判が噴出したこと。そして3つ目は、オバマが主要20カ国・地域(G20)首脳会議で、貿易不均衡是正の具体策を引き出せなかったことだ。

 米中どちらの味方につくか、多くの国が選択を迫られるなか、ドイツのような長年の盟友でさえ、落ち目のアメリカから距離を置き、昇り調子の中国に擦り寄っていた。貿易不均衡と通貨戦争の問題に関して、各国は過去ではなく未来を見据えた選択をしたのだ。

 G20終了後のオバマの発言を見れば、アメリカが国際社会から小馬鹿にされている事態をオバマ政権が理解していることは明白だ。オバマは丁重な外交用語を使うことなく、痛烈な言葉で中国の為替ゲームを非難した。

 アジア歴訪中に中間選挙惨敗の傷を癒そうとオバマが考えていたとしたら、それは完全な勘違いだ。この外遊は、彼の孤独を倍増させるだけだった。

アメリカをダメにしたウォール街

 今回の悲惨な旅で浮かび上がったのは、30年間に渡るウォール街のお祭り騒ぎの代償をアメリカが今になって払わされているという事実だ。経済危機の際に金融業界に注入された巨額の公的資金について、ウォール街からは「返済は済ませたのだから口を出すな」という勝手な言い分がたびたび聞こえてくる。まるで、経済危機がもたらした甚大な被害に対して、自分たちには責任がないような言い草だ。

 アメリカ国民は明確に反論すべきだ。「ふざけるな!」と。

 怒りの理由は、資本保証や超低金利など見えない補助金も含めた巨額の公的資金が金融業界に注入されたことだけではない。経済危機がアメリカにもたらした真のダメージは、さらに根深いところにある。ウォール街が30年間に渡って全米に撒き散らしてきた利己的なイデオロギーこそ、アメリカが窮地に陥った原因だ。
 
 ウォール街の経済モデルが生み出した最悪の事態は、08〜09年の金融危機だけではない。米経済の長期的な衰退も、ウォール街型経済が引き起こしたものだ。

 ウォール街のイデオロギーには、4つの重要要素がある。金融サービスの完全自由化、富裕層や法人の限界税率の大幅な引き下げ、インフラ整備や教育を含むあらゆる分野における政府の社会的投資の大幅削減、そして政府の給付金制度の縮小を最低限にとどめることだ(削減の政治的コストが大きすぎるため)。

 この路線を追求した結果、アメリカは最悪の事態に陥った。経済バブルと巨額の赤字、競争力低下、不均衡な所得分布、自国の借金返済のための外国資本への依存......。

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