共和党「人種政治」のブーメラン
移民問題やモスク建設問題で攻勢を強める共和党だが、保守層受けする主張だけを展開する戦略には落とし穴がある
不安の季節 9.11テロ跡地近くのモスク建設を支持する意向をオバマは表明したが(8月14日、フロリダ州で) Jason Reed-Reuters
アメリカ人が理性を持ち合わせていれば、11月の中間選挙の争点は経済問題に絞られるはずだ。しかし、アメリカ人にはその理性がないらしい。中間選挙の選挙戦は、3つの波乱要因に翻弄されそうだ。選挙を前に、社会を分裂させかねない3つの火種を共和党が利用しようとしているのである。
1つは、不法移民問題。焦点は、アメリカ国内で生まれた子供に自動的に市民権を認める合衆国憲法修正第14条。この条項の修正論が共和党内で浮上している。
もう1つは、アメリカにおけるイスラムの問題。9.11テロで崩壊したニューヨークの世界貿易センタービル跡地の近くに、イスラム団体がモスク(イスラム礼拝堂)とコミュニティーセンターを建設する計画がある。共和党内には、これを阻止すべきだとの声が強い。
3つめは、人種問題。金銭スキャンダルで非難を浴びている民主党下院議員2人は、アフリカ系アメリカ人だ。たとえ共和党にその意図がなくても、スキャンダル批判を展開すれば、人種の問題がどうしてもクローズアップされる。
これに対抗して民主党は、排外主義的で非寛容(実際にはもっと過激な言葉で非難している場合も少なくない)というレッテルを共和党に張ろうとしている。バラク・オバマの大統領就任式――1年半前の出来事とは思えないほど、大昔のことに思える――がアメリカに誇りをもたらしたとすれば、いまアメリカには、社会の一体感を瓦解させる「不安の季節」が訪れている。
ヒスパニック系有権者の憂鬱
共和党がどこを目指しているのか知るために、私はアフリカ系アメリカ人の共和党有力者に取材しようと考えた。11月の中間選挙で下馬評どおり共和党が大勝して議会の過半数を制すれば、共和党の針路がアメリカの針路になるかもしれない。
私が話を聞いたのは、03年まで10年近くにわたり下院議員を務めたJ・C・ワッツ。08年の大統領選では共和党のジョン・マケイン上院議員を支持したが、オバマが大統領に就任したときは誇らしく感じたという。ただし私と違って、幻想は抱いていなかった。「さまざまな歴史を経験し、数々の差別を目の当たりにしてきたので、(オバマの就任式を)新しい世界の幕開けとは思わなかった」と、ワッツは言う。
その後の出来事を見れば、ワッツの冷めた見方が正しかったことが分かる。「ワシントンを中心とする政治やメディアの世界では誰も、発言する前に物事をよく勉強しようとしない。自分の支持層に迎合した発言ばかりだ。この点は、いま起きていることのすべてに共通する」
移民問題はその典型だ。保守派は不法移民の取り締り強化を主張するだけでは満足できずに、憲法修正第14条の変更を唱え始めた。この主張は、勢いを増す保守系の草の根市民運動「ティーパーティー」の心の琴線に触れる。
さしあたり共和党が主に問題にしているのは、中国系の「アンカー・ベビー」(家族のアメリカ在留許可を得るために、母親がアメリカに渡航して産む赤ん坊)だが、ヒスパニック系(中南米系)有権者は根底に流れるメッセージを敏感に感じ取っている。数千万人上るヒスパニック系有権者は、いまや選挙で無視できない存在だ。
共和党は移民規制強化を訴えて今回の選挙で勝っても、将来そのツケを払わされかねないと、ワッツは指摘する。「共和党の未来を担う存在であるヒスパニック系の実力者たちは、心外に感じている。味方に足をすくわれた気分でいる」