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オバマ政権「機密流出」反論の納得度

内部告発サイトがアフガニスタン関連の米軍機密文書を公開した問題で、火消しに走る政権幹部の言い分を検証する

2010年7月29日(木)17時35分
ウィリアム・サレタン

苦しい立場 機密文書の大量流出に対し、アフガニスタン政策に影響はないと言うオバマだが(7月27日、ホワイトハウスで) Jim Young-Reuters

 アフガニスタンにおける米軍の軍事作戦に関する9万点を超える機密文書(出所は主に派遣部隊や情報関係者と見られる)が民間の内部告発サイト「ウィキリークス」に流出し、その多くが公開された。

 この中には「民間人の人的被害」や「アフガニスタン政府の汚職」、「パキスタン当局とタリバンの癒着」といった、バラク・オバマ大統領率いる米政府にとっては耳の痛い話も含まれている。

 そこでオバマ政権は反撃に打って出た。ジェームズ・ジョーンズ大統領補佐官(国家安全保障担当)とロバート・ギブス大統領報道官、P・J・クラウリー国務次官補(広報担当)は異口同音に、流出した機密文書の内容に目新しいものはなく、米政府の政策には影響しないとの見方を示している。

 さてこの政府側の反論は十分に納得できるものだろうか。ちょっと検証してみよう。

■「新しい事実は含まれていない」

 これはオバマ政権の主張の柱だ。26日の記者会見でキブス報道官は繰り返し「大した新しい事実」はなかったと述べた。クラウリー国務次官補も「重要な新しい事実はなかった」と語った。

 彼らの言うことに嘘はないが、同時にごまかしでもある。別に規模の大きな情報でなくても、人々の目を覚ますことはできる。

 ギブスは今回の漏洩文書は「ペンタゴン・ペーパー」(ベトナム戦争への米政府の介入の過程を振り返った国防総省の秘密報告書で、新聞にリークされた)とは異なると言う。その場その場での作戦や事実を集めた「ただの現場報告」に過ぎないというわけだ。

 だが記者たちの前でこの言い方は説得力に欠ける。戦争が誤った方向に進んでいることを例証しようとする場合、優れたジャーナリストならその場その場での作戦や事実に関する現場報告を大事にするはずだからだ。

 それに現場からの報告によって全く新しいタイプの問題の存在が明らかになることなどほとんどない。旧知の問題が政府の言うよりも深刻だったり根深かったりすることを示すだけで十分なのだ。

 今回の漏洩文書の例を見てみよう。例えば09年1月の会議について書かれた文書には、パキスタン軍統合情報局(ISI)のハミド・グル元局長がアフガニスタン領内におけるアルカイダの自爆テロ計画に手を貸したらしいとの話が出てくる。

 グルはパキスタン国内にアルカイダの工作員が潜伏していることにも目をつぶると誓ったという。これを大いなる新情報とは呼べないが、裏切りと混乱の不穏な状態を示していることに間違いはない。

■「09年当時と今とでは状況が違う」

 ジョーンズ補佐官は25日に出した声明の中で、漏洩した機密文書は「04年1月〜09年12月の間」のものらしいと指摘。その上で、米軍のアフガニスタン増派やパキスタン領内のアルカイダやタリバンの掃討に力を入れるといった「新戦略」をオバマ大統領が発表したのは09年12月だったと述べた。

 ギブス報道官もこの点を強調している。「(漏洩)文書は04年1月〜09年12月の期間のものだそうだが」と前置きした上で、09年に就任したオバマ大統領はアフガニスタン政策の包括的な見直しを行ったと指摘。その結果が09年12月1日の新戦略に関する演説だったというわけだ。

 確かにオバマが新戦略を発表した時期と漏洩文書の最後の日付は重なる。だからと言って、悪材料が09年12月以降なくなったと考える根拠にはならないはずだ。

 アメリカの大統領が演説をしただけで、汚職や二枚舌といった地球の裏側の国の行動パターンがいきなり変わるというのは無理がある。リークした人物が情報にアクセスできたのがこの頃までだったということに過ぎないのではないか。

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