最新記事

米大統領

実は演説下手だったオバマの言語流出

原油流出事故のTV演説は陳腐な言葉遊びのオンパレード。説教と言い訳の垂れ流しに国民はもううんざりだ

2010年7月21日(水)16時06分
ジョージ・ウィル(本誌コラムニスト)

 古代ギリシャの雄弁家は「沈黙より良い結果が得られないようならしゃべるな」と説いた。だが6月15日にバラク・オバマ米大統領が執務室から行ったテレビ演説を見る限り、この「現代の雄弁家」は古代の教えは自分には当てはまらないと考えているようだ。

 大統領に就任してからの彼を注視していれば驚くには当たらないが、オバマはメキシコ湾での原油流出事故に、大幅な増税を必要とする理由を見いだした。この事故で彼の(温暖化対策というか)エネルギー法案への情熱も高まった。

 オバマの演説の出来が悪いのはもはや目新しいことではないが、それにしても今回は恐ろしいほどひどかった。「アメリカは多くの課題に直面している」という陳腐な導入部に始まり、海岸を「襲撃」した原油流出との「戦い」、止まらない流出を「包囲攻撃」するための「戦闘計画」などというどこかで聞いたような比喩が続く(政府は薬物や貧困、癌、環境には景気よく戦争という言葉を使うが、実際の戦争についてはその言葉の使用を避けようとする)。

 事故対策委員会の設置という儀礼的な発表をした後は、これまたお決まりのジョージ・W・ブッシュ前大統領批判だ(シカゴ市民のオバマは、シカゴ出身の作家リング・ラードナーの小説に登場する、言い訳ばかりしている野球選手アリバイ・アイクに似てきた)。

 中学校の弁論大会でしか通用しないような下手な言葉遊びも多い。そして黒幕たたきだ。「過去10年、(鉱物管理局は)規制は悪だ、企業活動は自主規制に任せるべきだと言って、規制を緩めて失敗した」

ブッシュの言葉も借用

「石油は有限資源」という、またも陳腐なセリフを吐いた後には、オバマ自身が状況を悪化させた問題に対する妙な嘆きが続く。「陸や浅瀬には掘削できる場所がなくなってきているために、深海の油田開発が進む」。オバマも民主党も、北極圏国立野生生物保護区のツンドラや沿岸浅海域での掘削に反対しているはずなのだが。

 オバマは前任者が使った、アメリカは化石燃料「中毒」に陥っているというばかげた言い回しも借用した。私たちが化石燃料を必要としているのは、十分な代替エネルギーがすぐに得られないから。「必要」と「中毒」は別物だ。

「何も行動しないというアプローチ」に反対し、勇気と洞察力に欠けた偏狭さや臆病さを非難する。オバマは「問題があまりにも巨大で困難だから解決できないという考えは決して許さない。第二次大戦中にも戦闘機や戦車の製造能力について同じことが言われた」と言うが、初耳だ。当時、大半の米国民は戦闘機や戦車を生産したり操縦するのに忙しくて、そんな考えを持つ余裕などなかったはずだ。

 演説を甘美に飾るには「子供たち」への言及が欠かせない。もちろんオバマも「私たちが子供たちに残してあげたいアメリカのために戦う決意」に触れる。「子供たちにこんな未来を残すわけにはいかない」。ここでオバマが指すのは原油まみれの未来。数兆ドル規模の財政赤字に苦しむ未来は残してもいいようだ。

 そして当たり前のことを感傷的に語って演説を締めた。「原油流出が、アメリカの最後の危機というわけではない。この国はこれまでも困難に直面してきたし、今後も厳しい時を迎えるだろう」

口を開くほど薄れる効果

 オバマは6月8日、ワシントン郊外で医療保険制度改革法案を絶賛する演説を行った。オバマが100を超える演説やインタビューなどを通じて売り込みを図り、民主党議員も党議拘束を守って投票した結果、可決はした。だがその後も人気は相変わらず芳しくない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドイツ下院、新たな兵役法案承認 ロシア脅威で防衛力

ワールド

NYタイムズ、パープレキシティAIを提訴 無断複製

ワールド

プーチン氏、インドに燃料安定供給を確約 モディ首相

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 4
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 5
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 6
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中