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ニューヨーク

ビッグアップルのビッグな都市問題

2010年2月16日(火)16時52分
ジョエル・コトキン(米チャップマン大学都市未来学フェロー)

 これらの地区の本当の魅力は、ほどほどの規模で職場に近く、よい学校や公園があること。こうした特徴は不況下でも非常に重要だ。「家族向けに確立した住宅地に比べ、新しい高級住宅地は不況をうまく乗り切れない」とニューヨークに本部のある都市未来センターのジョナサン・ボウルズは言う。

 家族向けの住宅地を育てるには公共政策の転換が必要だ。ブルームバーグが市長になってから、贅沢なコンドミニアムの大規模開発やスタジアム、オフィスビルの建設に多額の補助金がつぎ込まれた。

 ブルックリンの繁華街にある9万平方誡近いアトランティック・ヤーズの再開発では、プロバスケットボールチームのニュージャージー・ネッツの競技場や、高級マンションが建設される。市独立予算局は最近の報告の中で、市や州からの補助金の合計を7億2600万ドルとし、将来的には市の経済に貢献するどころかマイナス要因になると予想している。

 ニューヨークの未来を支えるごく普通の住宅地を成長させるには、さまざまな経済的機会を創出できる政策が必要だ。現在のニューヨークは規制が厳し過ぎ、税率が高過ぎるので、大手メディアや金融機関など金持ち企業くらいしか繁栄できない。

 食品加工や家具製造、衣類生産などの業種に多い中小企業はこれまで重視されてこなかった。これらの業界はかつてはロシア、ドイツ、ポーランド、イタリアからの移民が営んでいたが、最近は西インド諸島や中南米、韓国、中国、南アジアからの移民が取って代わった。過去10年間、ニューヨーク生まれの自営業者の数が減る一方で、移民の自営業者の数は増えた。

 旧世代の市民も最近の移民も、この街に住むのは自分たちのコミュニティーと自分たちの産業に近いからだ。最近では文化や生活の質の高さを求めてニューヨークに住む人も多いが、彼らがいつまでも自由奔放に生きるわけではない。

ネットがつなぐ共同体

 年を取ったり、事業を始めたり、家庭を持ったりすれば、優先事項は変化する。安定した仕事、安い税金、安全性、学校、住宅が手に入るかどうかなど、若い頃とは異なる平凡な事柄を基準にして、都市に住み続けるかどうか決める人も多い。

「この地区の魅力は隣人、それに適度な人口密度」と、ブルックリンのフラットブッシュ地区の自宅で働く映画編集者ネルソン・ライランドは言う。彼には2人の子供がいる。「何よりいいのはコミュニティーに属している感覚だ」

 テクノロジーの進歩がコミュニティーの感覚をさらに高めるだろう。インターネット上のグループが、異なる地区に住む家族やグループを結び付け、学校や教会、シナゴーグ(ユダヤ教会堂)など伝統的な施設の役割を補っている。

 こうしたオンラインの新機能は、都市研究家ジェーン・ジェイコブズの言う「通りを見張る目」の役割も果たす。よさそうな店やレストランが開店したり、子供を狙う性的虐待者とみられる人物が現れたりしたとき、昔なら主婦は洗濯をしながら、男たちはビリヤード場で、子供たちは駄菓子屋で情報を交換していた。今後はオンラインのネットワークを通じて情報が広がっていくだろう。

 ブルームバーグは8年間、前任者ジュリアーニの実績をさらに発展させた。彼が3度目の当選を果たせたのは、それに加えて莫大な資産を選挙運動に投じたためだ。

 ニューヨークの経済はもはやウォール街に支配される時代ではない。将来の市の繁栄のために市長が最後の任期にすべきなのは、自身が住む高級住宅地からはるか離れた地区の住民たちに、チャンスを与える政策を打ち出すことだ。彼らこそがニューヨークの未来の真の担い手なのだから。

(筆者は『次の1億人──2050年のアメリカ』を2月出版予定)

[2010年1月20日号掲載]

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