最新記事

アメリカ

「拷問」に曲を使われたアーティストたちが
使用料を請求へ?

エアロスミス、レイジ・アゲンスト・ザ・マシーン、ジェームズ・テイラー、トゥパック……、情報公開請求でテロ容疑者への拷問に曲が使用されたミュージシャンはさらに増えそうだが、軍幹部が選曲に関わっていたとの疑惑も

2009年11月6日(金)17時30分
クリスタ・ギサマン

とんだ迷惑 エアロスミスの曲もテロ容疑者への拷問に使用されたとみられる。ボーカルのスティーブン・タイラー(写真)も怒り心頭?©Reuters

 ブリトニー・スピアーズやナイン・インチ・ネールズの曲、はたまた猫の餌のCMソングを何時間も聴き続けたら頭がおかしくなるだろうか? 米軍の将校たちがイラクやアフガニスタン、キューバに収容されているテロ容疑者に音楽を聞かせたのは、まさにそれをねらってのこと。独立系調査機関のナショナル・セキュリティー・アーカイブは情報公開法に基づいて10月22日、米陸軍や中央軍、国防総省情報局(DIA)やCIA(中央情報局)など複数の政府機関に、拘束や尋問中に使用された音楽の録音や報告書の開示を請求した。

 開示請求の対象は20。いずれも、キューバのグアンタナモ米海軍基地テロ容疑者収容所施設で「騒々しい」音楽を使用したことが記されているものだ。ある収容者は、睡眠を奪う目的で、耳が聞こえなくなるような大音量でエミネムやメタリカの音楽を何時間にもわたり聴かされたと主張している。エアロスミスやジェームズ・テイラー、トゥパック・シャクールといったアーティストの曲も使われた可能性がある。

 当然のことだが、名前の挙がったミュージシャンの中には、拷問の可能性を指摘されている高度な尋問方法に、自分たちの音楽が使用されたことを快く思っていない者もいる。レイジ・アゲンスト・ザ・マシーンのギタリスト、トム・モレロはショックを隠さない。「グアンタナモはディック・チェイニー(元副大統領)が考えたアメリカの姿かもしれないが、それは俺の考えるアメリカとは違う。自分が製作に関わった音楽が、非人道的犯罪に使われていた事実に胸くそが悪くなる」との声明を発表した。

 オルタナティブ・ヒップホップグループのザ・ルーツも後に続いた。「グアンタナモで囚人を殴ったり、足かせをする拷問に自分たちの音楽が使われていたと知ったときは、頭にきた。ディック・チェイニーの戦争に自分たちの曲が使われるくらいなら死んだほうがマシだ。他の人間を拷問するのに使うなんて許せねえ」

ノリエガ将軍も大音量の音楽で降伏した実績

 それにしてもテロ容疑者の精神をおかしくさせるための音楽を、尋問担当者はどうやって選んだのか。情報開示請求書を草案したナショナル・セキュリティー・アーカイブの上級アナリスト、ケイト・ドイルは、以前にも同様の目的で使われた楽曲を選ぶよう軍幹部が指示していたと考えている。ドイルはそれを裏付ける資料として、パナマのマヌエル・アントニオ・ノリエガ元将軍が1990年に米軍に逮捕された後の文書に言及した。ノリエガは逮捕を逃れるためにバチカン大使館に逃げ込んだが、米軍の幹部らが大音量のスピーカーを運び込み、ビリー・アイドルといったロックからニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックのようなポップスまで、幅広いジャンルの音楽を流し続けた。ノリエガを音であぶり出して降参させようという作戦だ。思惑通り、10日後に彼は降伏した。

 さまざまな証拠が集まれば、政府がミュージシャンに行動の対価を支払う必要性が生じる可能性もある。ミュージシャン側は裁判で、曲が使われた回数に応じた使用料を請求できるかもしれない(すでに裁判の準備が進んでいるとの噂だ)。ただし収容所での使用が、個人的な使用だったか、公共の目的で使用されたかの解釈がカギになる。後者の場合は著作権侵害に当たる。またアメリカの著作権法がキューバでの使用にも適用されるのか、の判断も裁判官にゆだねなければならない。

 これまでに機密情報扱いが解除された文書にはテロ容疑者や収容所の警備員などの証言が盛り込まれており、ナショナル・セキュリティー・アーカイブが情報開示請求に含めるミュージシャンのリストを作る際に役立った。政府が回答をする頃までには、ミュージシャンのリストはさらに増えるだろう。政府の回答によって、尋問や拷問的手法に使われた具体的な曲名も明らかにされるはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ANA、国内線の一部で欠航や遅延 エアバス機の改修

ワールド

アングル:平等支えるノルウェー式富裕税、富豪流出で

ワールド

ヒズボラ指導者、イスラエルへの報復攻撃を示唆 司令

ワールド

「オートペン」使用のバイデン氏大統領令、全て無効に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    香港大規模火災で市民の不満噴出、中国の政治統制強…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中