最新記事

米医療保険改革

オバマに浴びせた野次の代償

大統領の演説を中断させる歴史的暴挙で一躍有名になった共和党のジョー・ウィルソン下院議員と法案の運命は?

2009年9月16日(水)14時50分
ホリー・ベイリー(ワシントン支局)

 ワシントンの政治はここまで醜くなるのか。オバマ大統領が9月9日、議会の上下両院合同本会議で医療保険改革法案の早期成立を訴える演説をしていたさなかのこと。国内で懸念が広がっている不法移民への保険適用は提案していないとオバマが述べると、「嘘つきだ!」とヤジが飛んだ。

 叫んだのは法案に反対する共和党のジョー・ウィルソン下院議員(サウスカロライナ州選出)。オバマは一瞬演説を中断した。こうした場では感情が高ぶっても、大統領への礼儀を守るのが常識だ。同じ共和党のジョン・マケイン上院議員はCNNのインタビューでウィルソンを「まったく無礼」と批判し、謝罪すべきだと語った。

 演説の1時間余り後、ウィルソンは謝罪の声明文を発表。「不法移民への医療保険提供に関する大統領の発言に感情を抑えられなくなった」と述べた。「大統領の発言には同意しないが、私の言葉は不適切だった」。さらにホワイトハウスに電話し、エマニュエル大統領首席補佐官に謝意を伝えた。

自分は手厚い公的医療保険に加入

 だが謝罪しても遅いかもしれない。ウィルソンは、これまで全国的にはほとんど知られていなかったが、今ではミニブログサービスのトゥイッターで熱いネタになっている。地元では、彼に批判的な人たちが民主党候補者に献金すると明言しており、来年の中間選挙で早くも苦戦しそうな気配が出てきた。

 ちなみにウィルソンのオバマ批判は的外れだ。下院で議論されている法案は不法移民への医療保険提供を明確に禁止している。

 彼自身の立場もよく分からない。公的医療保険に反対だとしているが、自らは元陸軍州兵、息子4人も全員軍人で、一家そろって軍関係者向けの手厚い公的医療保険の恩恵を受けている。今回発表した声明でも軍の保険制度を「世界最高クラス」と絶賛している。

 確かなのは、ウィルソンのヤジは共和党にとってマイナスでしかなかったということだ。この騒ぎで、オバマ演説に対する党の公式見解はすっかりかすんでしまった。

 共和党のチャールズ・ボウスタニー下院議員(ルイジアナ州選出)はオバマは現在の法案を破棄し、真に超党派の議論で新しい法案を作るべきだと主張する。「共和党はわが国が賄える常識的な改革の実現に向けて、大統領と協力する準備ができている」

[2009年9月23日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トルコ裁判所、最大野党党首巡る判断見送り 10月に

ワールド

中国は戦時文書を「歪曲」、台湾に圧力と米国在台湾協

ビジネス

エヌビディアが独禁法違反、中国当局が指摘 調査継続

ビジネス

無秩序な価格競争抑制し旧式設備の秩序ある撤廃を、習
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中