最新記事

米犯罪

バーナンキが大規模詐欺の被害者に

本誌独占情報:FRBのバーナンキ議長が、管轄下の米銀行を舞台とした大規模な詐欺グループの被害にあっていた

2009年8月28日(金)17時19分
マイケル・イジコフ(ワシントン支局)

油断大敵 小切手の入ったバッグを盗まれ、詐欺被害にあったFRB議長バーナンキと妻のアンナ(8月22日) Price Chambers-Reuters

個人のクレジットカード情報などを盗み出して金銭をだまし取る犯罪者は、運の悪い消費者だけでなく強大な権力者もターゲットにできる。そのいい例がアメリカ銀行界の長、ベン・バーナンキだ。
 
 最近の裁判資料を本誌が確認したところ、バーナンキFRB(米連邦準備理事会)議長が、ある詐欺組織の数百人の被害者の1人となっていた。この組織は、すでに有罪判決を受けている詐欺師「ビッグ・ヘッド」が率いるもの。だまされやすい消費者と、全米で10以上の金融機関から210万ドル以上をだまし取ってきたという。

 昨年の夏、ウォール街を襲った金融危機への対処に追われていたちょうどそのころ、バーナンキは妻が財布や夫婦共有名義の小切手帳が入ったハンドバッグを盗まれたことを知った。裁判資料によれば、その数日後、何者かがその小切手を現金化し始めた。「彼は、それを快く思っていなかったといっていい」と、バーナンキの親しい同僚は言う(私的な問題について話しているため匿名を希望)。

 今回初めて明らかになったことだが、バーナンキの小切手を盗んだ犯人は、すぐにシークレットサービスと米郵便検査局による大規模な捜査の対象となった。捜査は、バージニア州アレクサンドリアの連邦検事による一連の逮捕、刑事告発、起訴が続いたここ数カ月で山場を迎えた。ターゲットとなったのは昔ながらの窃盗とハイテクを駆使した詐欺行為を組み合わせて、銀行口座番号を盗み出そうとする全米規模の犯罪組織だ。

「個人情報の盗難は毎年、何百万ものアメリカ人が被害にあう深刻な犯罪だ」と、バーナンキは書面で本誌に述べた。「私たちの家族は、1つの犯罪組織が生んだ500件の被害の一例にすぎない。こうした金融犯罪の解決と防止に、忍耐強く熱心に取り組む警察当局に感謝している」

小切手に銀行口座や自宅の電話番号も

 個人情報の盗難といえばたいてい、インターネットを通じてクレジットカード情報などを盗むサイバー犯罪と関係がある。しかしバーナンキの場合は、昔ながらの路上犯罪に偶然巻き込まれてしまったようだ。

 裁判資料によれば、バーナンキの妻アンナは08年8月7日、首都ワシントンの自宅からほど近いスターバックスでイスの後ろからハンドバッグをひったくられた。中には運転免許証、社会保障カード、クレジットカード4枚、大手銀行ワコビアの夫婦共有名義の小切手帳が入っていた。小切手一枚一枚にバーナンキの銀行口座番号、自宅住所と電話番号が印刷されていた。アンナはその日のうちにワシントン警察に盗難を届け出た。
 
 しかし後に、犯人は並みの窃盗犯ではないことがわかった。連邦捜査官と複数の州警察が何カ月も追っていた犯罪集団の一員だったのだ。

 リーダーの1人であるクライド・オースティン・グレイJr.はバージニア州アレクサンドリアの連邦裁判所で先月、銀行詐欺を共謀した罪を認めたばかりだった。裁判記録によれば、グレイ(組織内では「ビッグヘッド」の名で知られる)は、スリや郵便泥棒、事務職員の一団を雇い、小切手やクレジットカード、軍人身分証明書、そのほかの個人情報を盗ませていたという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始へ

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの

ビジネス

中国の主要国有銀、元上昇を緩やかにするためドル買い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中