最新記事
考古学

ローマ人は「鉛汚染」でIQを低下させてしまった...考古学が解き明かす「帝国の失敗」

How Pollution in Ancient Rome Lowered IQ of Population

2025年3月18日(火)17時13分
アリストス・ジョージャウ(科学担当)
古代ローマの学校の様子

最先端の文明は歴史上初の大規模な環境汚染をもたらした(古代ローマの学校) CLU/GETTY IMAGES

<ローマ帝国では食器や化粧品にも使われた鉛。大気が汚染されると、都市でも農村でも認知能力の低下を招いたようだ──>

数千年前のローマ領は鉛汚染が深刻で人体に影響があったことは、古文書や骨格の遺物など歴史的・考古学的証拠が示唆している。そして新しい研究によると、人々のIQを低下させた可能性もある。

鉛の経路は釉薬(うわぐすり)を使った食器や塗料、化粧品などがあったが、「ローマ時代の銀鉱山の採掘と精錬による(大気の)鉛汚染は、人間が環境に及ぼした大規模な影響の最初の明白な例だろう」と、論文の筆頭執筆者ジョセフ・マコネル(Joseph McConnell)は語る。


研究者たちは北極圏で採取された紀元前500~紀元後600年の氷床コアを分析し、大気モデルを用いて気流を再現。大気中の鉛濃度はローマ帝国の隆盛とともに紀元前15年ごろに急激に高まり、パックス・ロマーナの衰退が始まる165年ごろまで比較的高い水準が続いたようだ。

現在の疫学から、幼少期の鉛への曝露はローマ帝国全体でIQを2.5~3ポイント下げたと推定される。都市と農村、エリート層と非エリート層を問わず、認知能力の低下を招いたとみられる。

ローマ帝国初の大規模な伝染病となった「アントニヌスのペスト(Antonine plague)」が、大気の鉛汚染が深刻だった約200年間の直後に発生したことも「興味深い」と論文は述べている。

<参考文献>

McConnell, J. R., Chellman, N. J., Plach, A., Wensman, S. M., Plunkett, G., Stohl, A., Smith, N.-K., Vinther, B. M., Dahl-Jensen, D., Steffensen, J. P., Fritzsche, D., Camara-Brugger, S. O., McDonald, B. T., & Wilson, A. I. (2024). Pan-European atmospheric lead pollution, enhanced blood lead levels, and cognitive decline from Roman-era mining and smelting. PNAS, 121(0), e2419630121. https://doi.org/10.1073/pnas.2419630121

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル内閣、26年度予算案承認 国防費は紛争前

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反

ビジネス

ユーロ圏第3四半期GDP、前期比+0.3%に上方修
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 7
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 8
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 9
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中