最新記事
SNS

BLACKPINK、TWICE、NewJeansだけではなかった 韓国ディープフェイク性被害は中学生や女性兵士にまで

2024年9月5日(木)14時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
BLACKPINK

ディープフェイクの標的にされたBLACKPINK REUTERS/Kim Soo-hyeon

<同じ学校の生徒同士、あるいは生徒が教師をディープフェイクの犠牲にする事例も>

韓国社会で最近大きな問題になっているのが、AIによるディープラーニングで生成されたフェイク動画、いわゆる「ディープフェイク」だ。AIを利用したフェイク動画は、2020年の米大統領選挙や、ロシアによるウクライナ侵攻などで世界中の人びとが目にするようになったが、今、韓国で問題になっているのは、女性の顔を性的な動画と合成したものが、秘匿性の高いSNSテレグラムを経由して拡散していることだ。

米国サイバーセキュリティ業者であるセキュリティヒーローが最近発表した「2023ディープフェイクの現状」と題された報告書によると、2023年ディープフェイクの性的コンテンツを掲載する10サイトの映像9万5820件を分析した結果、全世界に配布されているディープフェイクわいせつ画像で合成された人物の実に53%が韓国人だったという。

こうしたディープフェイクの被害者の中にはBLACKPINK、TWICE、、NewJeansといった人気K-POPアイドルから、ごく一般の学生、女性軍人、教師、さらには中学生といった未成年者まで含まれいた。しかもこうした一般の被害者は、身の回りの男性が加害者だった事例が多く、多くの女性たちはいつ自分が被害にあうかもしれないと不安に駆られている。韓国メディア聯合ニュース、KBS、MBC、時事ジャーナルなどが報じている。

8月末から9月にかけて、韓国の音楽芸能事務所はディープフェイク問題への対策を発表した。先頭に立ったのはTWICE、ITZY、NMIXXなどが所属するJYPエンターテインメント。8月30日にファンコミュニティを通じて「最近当社アーティストを対象にしたディープフェイク映像物が拡散している状況に対して非常に深刻に受け止めている」として「これは明白な不法行為であり、現在関連資料を全て収集しているところで、専門法律事務所と共に強力な法的対応を進行中だ」と発表した。

これに続くかのようにBLACKPINKの所属事務所YGエンターテインメントも9月2日にディープフェイク問題への対応として「当社はアーティストの人格と名誉に深刻な危害を及ぼすすべての不法行為に対して持続的に強硬で厳正に対応する予定」と法的対応を発表した。さらに3日には(G)I-DLEの所属事務所キューブエンターテインメントも「ディープフェイクに対して持続的なモニタリングと共に資料を収集中だ」として「ディープフェイク制作者および配布者には容赦なく強力な法的措置を取る予定」と明らかにした。また、これらに先だってNewJeansの所属事務所ADORも6月、「アーティストの肖像を合成したフェイク画像を流布·販売するなど、とうてい容認できない行為をした者に対して警察で捜査が進行しており、その中の一部は1審判決で刑事罰が決定されたことを確認した」と警告していた。

【動画】韓国ネット配信で活躍するカン・ドンランら女性インフルエンサーたち

ディープフェイク問題、発端はソウル大学から

もちろん、K-POPアイドルなどの著名人だけが標的になっているわけではない。一般の女性について被害が大きく報道されたのは被害者・加害者友にソウル大学の出身者という「ソウル大学虚偽わいせつ物製作流布事件」と呼ばれる事件だ。

この事件は、2020年にわいせつ動画をSNSで共有して韓国を震撼させた「n番部屋事件」に関して調査報道を行った女性ジャーナリスト、ウォン・ウンジ氏が潜入取材をして明るみになった。ウォン氏は「美貌のソウル大出身の妻と結婚した30代男性」という設定のアカウントでテレグラムに潜入。2022年7月から2024年4月まで加害者のパク(40)とコミュニケーションを続けて信頼関係を築いたという。パクはウォン氏の語る仮想妻に執着し「私が妻を強姦しても大丈夫か」と尋ね、さらに「下着姿の写真を送ってほしい」「実際の下着をくれ」とまで要求した。これに対してウォン氏は「本当に譲ってやる」と約束してパクを誘い出し、地下鉄2号線のソウル大入口駅近くに現れたパクが下着の入った紙袋を持ち出したところで警察が逮捕したという。

その後の警察の調べで、逮捕されたパクはソウル大の後輩女子学生を含め、48人の女性を相手に計1852件の合成写真や映像を制作しテレグラムに投稿したことが分かった。彼は、ソウル大学に10年以上通い、被害者たちと知り合った後、カカオトークのプロフィール写真などで合成わいせつ物を制作。投稿したディープフェイクの中には、未成年者のものも含まれていることが明らかになった。パクがテレグラムのチャットルームに投稿した映像は100件に達し、映像の大部分はソウル大学の同窓である共犯のカン(31)が制作したという。カンは犯行当時、ソウル大学の大学院生で、約28人の女性を対象に卒業写真やSNS写真を裸の写真などに合成したディープフェイクを制作し、パクに提供していた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国万科の社債権者、返済猶予延長承認し不履行回避 

ビジネス

ロシアの対中ガス輸出、今年は25%増 欧州市場の穴

ビジネス

ECB、必要なら再び行動の用意=スロバキア中銀総裁

ワールド

ロシア、ウクライナ全土掌握の野心否定 米情報機関の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 10
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中