最新記事

サイエンス

完成目標はわずか5年後、中国が「究極のエネルギー」核融合発電に示す本気度

CHINA’S MEGA LAB

2023年2月23日(木)16時45分
エド・ブラウン(本誌科学担当)
中国の核融合エネルギー実験施設

中国・安徽省にある核融合エネルギー実験装置「EAST」(2018年撮影) REUTERS

<2028年までに世界最大の核融合発電施設を目指す中国の計画だが、提示されたタイムテーブルはいささか楽観的すぎる>

中国で2028年までに核融合発電を目指す施設の建設計画が昨年、政府に承認された。

実現すれば、この施設は5000万アンペアの電力を生成する。いま世界最大の核融合炉はアメリカのサンディア国立研究所(ニューメキシコ州)が運営するZパルスパワー施設だが、中国が計画しているものはその約2倍の能力を持つことになる。

昨年9月に北京のシンクタンク「遠望智庫」が主催したオンライン会議でこの計画を発表したのは、中国を代表する核兵器開発の専門家で、中国工程物理研究院教授の彭先覚(ポン・シエンチュエ)だ。

彭によれば、計画中の施設では2種類の水素同位体(重水素と三重水素)に点火するために非常に強い電気を加えて、核融合反応を引き起こす。この過程で生まれる強いエネルギーと圧力が原子核を融合し、さらに強いエネルギーを生成して電力として送り出す。

「今日の世界で、核融合は科学技術の最高の宝だ」と、彭はオンライン会議で語った。

これまで世界中の科学者が、核融合エネルギーの実用化を目指して研究を続けてきた。核融合は実験室では確認されている。しかし核融合を起こしても、そのために投入した量を上回るエネルギーが生成されなくては意味がない。その初の成功例が昨年12月に報告されたが、エネルギーの「純増」と呼べるかは疑問だ。

核融合が「究極のエネルギー源」である理由

核融合は過酷な条件の下で原子核同士が結合し、より重い原子核に変わる現象だ。結合した後の原子核の質量は、結合前の原子核の質量の合計より軽くなっており、その差の分の質量がエネルギーに変わる。

もし科学者たちがいくつものハードルを乗り越えて核融合発電が実現すれば、原料をほぼ無尽蔵に調達でき、温室効果ガスを放出しないクリーンなエネルギーを生成する手段を手にできる。核融合が「究極のエネルギー源」と呼ばれる理由は、そこにある。

核融合には慣性閉じ込め方式や磁場閉じ込め方式など、いくつもの方法がある。その1つが、Zピンチという物理現象を使った「Zマシン」によるものだ。

Zピンチでは、プラズマを流れる電流が磁場をつくる。この磁場がプラズマ自体を圧縮(ピンチ)して、核融合を起こすのに必要な高温・高密度の状態をつくり出す。Zマシンは長いこと核兵器の性能をシミュレーションするために使われていたが、現在は核融合発電を目指す取り組みにも使われている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、月内の対インド通商交渉をキャンセル=関係筋

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部への住民移動を準備中 避難設

ビジネス

ジャクソンホールでのFRB議長講演が焦点=今週の米

ワールド

北部戦線の一部でロシア軍押し戻す=ウクライナ軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 4
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 10
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中