最新記事

電気自動車

SUVのEVは、さらに危険な車になり得る

A DEADLY MISTAKE

2023年1月6日(金)18時15分
デービッド・ジッパー(ハーバード大学ケネディ行政大学院タウブマンセンター客員研究員)
電気自動車

北米国際自動車ショーでお披露目されたフォードのEVピックアップトラック「F-150ライトニング」(2022年9月、ミシガン州デトロイト) BILL PUGLIANO/GETTY IMAGES

<重いバッテリーが「凶器」に。電動化を機に、環境に優しいだけでなく、より安全な車にするという意欲は、メーカーにも米規制当局にも感じられない>

アメリカで気候変動対策を大きな柱とするインフレ抑制法が成立したのは2022年8月16日のこと。これには電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の新車を購入する場合、最大7500ドルの税控除が受けられるといった強力なEV普及推進策が含まれている。

その翌日、運輸省の全米高速道路輸送安全局(NHTSA)は1つの統計を発表した。2022年1~3月期の交通事故死が前年同期比7%増の9560人と、四半期ベースで2002年以来の最悪の水準になったというのだ。

2つのニュースは無関係に見えるかもしれないが、そんなことはない。自動車産業がやり方を変えなければ、EVへの移行はアメリカの交通事故死を一段と増加させるかもしれない。

現在の状況は世界的に見ても異常だ。ほぼ全ての先進国では、ここ10年間で交通事故死が減っているのに、アメリカでは30%超も増えている。アメリカ人が交通事故で死亡する確率は、フランス人やカナダ人の2倍以上にもなる。

この残念な「アメリカ例外主義」を説明する要因はいくつかある。アメリカ人は総じて車を運転する機会が多く、より安全な公共交通機関を利用する機会は比較的少ない。

またアメリカの道路には、安全につながる道路監視カメラが少ない一方、信号が少ない(従ってスピードを出しやすく交通事故が起きやすい)幹線道路を都市部に増やしている。

そしてもう1つ、重大な要因がある。車高が高く、車両重量が重いピックアップトラックやSUV(スポーツユーティリティー車)を好むアメリカ人の性質だ。

こうした大型車はその重量ゆえに、衝突事故を起こすと相手により大きな衝撃を与える。また、その車高ゆえに、目の前の視界を悪くするし、歩行者にぶつかったときには脚でなく胴体を直撃してしまう。過去20年間のSUV普及により、歩行者の死亡事故は1000件以上増えたとする研究もある。

電動化したSUVは、さらに危険になり得る。車が大きくなるほど、巨大なバッテリーが必要になり、一段と重量が増すからだ。

シビック1台分より重い電池

例えば、フォード・モーターの人気EVピックアップトラック「F-150ライトニング」は約3トンと、ガソリン車モデルより30%近く重い。ゼネラル・モーターズ(GM)の「ハマーEV」は、さらに巨大で4トンを超える。

バッテリーだけでもホンダのシビック1台よりも重い計算だ。これは歩行者や自転車、そして小型車にとって大きな凶器になりかねない。

EVの安全上のリスクは、その重さだけではない。重いバッテリーを積んでいても、電動パワートレーン(駆動装置)により異常にスピーディーに加速できるのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ

ワールド

米・ウクライナ鉱物協定「完全な経済協力」、対ロ交渉

ビジネス

トムソン・ロイター、25年ガイダンスを再確認 第1

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中