最新記事

電気自動車

SUVのEVは、さらに危険な車になり得る

A DEADLY MISTAKE

2023年1月6日(金)18時15分
デービッド・ジッパー(ハーバード大学ケネディ行政大学院タウブマンセンター客員研究員)

例えばGM傘下シボレーのSUV「ブレイザーEV」は、走行開始からわずか4秒程度で時速100キロを出せる加速性能がある。テスラの「モデルXプレイド」はさらにパワフルで、2.5秒程度で時速100キロに達する。

メーカー各社は、こうした加速性能をセールスポイントにしているが、そんな性能は現実にはなんの役にも立たない一方で、万が一のとき、歩行者や車椅子の人から危険を避ける時間を奪う。

それなのにメーカーが加速性能を喧伝していることは、この業界の根本的な問題を示している。つまり電動化を機に、より安全でクリーンな自動車を作ろうとするのではなく、既存のデザインや基準を電動化時代にも持ち込もうとしているのだ。

これは間違っている。

例えば、フォードの「F-150ライトニング」は、ボンネットの下のガソリンエンジンが不要になったのだから、ノーズに向けてフロントを低く傾斜させるデザインにすれば、ドライバーの視界が広がる。さらに万が一歩行者や自転車に衝突したときも衝撃を軽減できるだろう。

それなのにフォードはそうした工夫をせずに、ガソリン車モデルと同じ車高を維持して、ボンネット下は収納スペースにした。

電動化に伴うこうしたリスクは回避できる。例えば、NHTSAが公道における加速スピードを規制をすれば、メーカー間の無謀な競争を防止できる。

また大型EVの殺傷度の高さを考えると、車両重量に応じて登録料金などを高く設定するべきだ。こうすれば消費者の意思決定に影響を与えられるし、メーカーが1回の充電で走行できる距離を伸ばすだけではなく、バッテリーの重量を減らす改良にも力を入れるよう促せる。

実際、EVの航続距離に関する不安は行きすぎだ。ニューヨーク・タイムズ紙は最近、「航続距離300マイル(約480キロ)のEVが欲しい? あなたがそんな長距離を最後に走ったのはいつ?」と題した論説で疑問を呈した。

むしろ、行政はもっと安全基準を厳しくして、EVへの切り替えを機に、もっと安全な車をデザインするようメーカーに要求するべきだ。連邦政府の新車評価プログラム(NCAP)に、歩行者保護の項目を追加することは、その第一歩になるだろう。既にヨーロッパやオーストラリア、日本にはこうした基準がある。

残念ながら、今のところアメリカでは、議会にも規制当局にも、自動車の電動化を機に環境に優しいだけでなく、より安全な車を推進する意欲は感じられない。

気候変動対策と、交通事故死の増加を食い止める努力が、二者択一である必要はない。だが、そのためには先見の明とイニシアチブが必要だ。

アメリカの連邦政府のリーダーたちは、それを示す必要がある。

©2023 The Slate Group

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中