最新記事

コールドチェーン

ワクチン開発に成功したら......それをどう世界に運ぶ?

THE MISSION OF THE CENTURY

2020年11月11日(水)17時10分
クライブ・アービング(航空ジャーナリスト)

航空各社だけでは対応しきれず、フェデックスなどの輸送業者にも出番が回ってきそうだ AVIATION-IMAGES.COM-UNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES

<ワクチンを地球上のすべての人に届けるには貨物機8000機分が必要──開発競争後の輸送という難題に備え、物流業界が計画する「世紀のミッション」とは>

いま世界中の航空輸送関連企業が、史上最大の空輸作戦を計画している。新型コロナウイルスのワクチンが完成した後、それをどうやって世界の隅々にまで届けるかというものだ。

並大抵の作業ではない。ワクチンを製造する企業から、実際に接種を行うクリニックに至るまで、全く新しいグローバルなサプライチェーンを築かなくてはならない。

国際航空運送協会(IATA)の試算では、地球上に住む約78億人全員に接種1回分のワクチンを届けるには、世界最大級の貨物機であるボーイング747Fで8000機分の積載量が必要だ。しかし、それだけの輸送態勢は世界に存在しない。

いま明らかになっているのは、この計画のハードルの高さだ。仮に来年の早い時期にワクチンが完成したとしても、世界中に届けるには最短で1年半かかる。

それにワクチンの輸送には、特別な注意が必要になる。最大の難題は温度管理だ。輸送日数がどんなに長くても、気候の変化が激しい地域を通過しても、ワクチンを運んでいる間は一定の保管温度を維持しなくてはならない。

温度管理の技術自体は既に確立されている。だが大量のワクチンを輸送するには、温度管理のインフラを大幅に拡充する必要がある。特別な設備のある倉庫を増やし、税関や国境を優先的に通過できるようにし、空と陸上の供給ラインを統合しなくてはならない。別の難題もある。

温度管理の面から言えば、新型コロナのワクチンのコールドチェーン(低温物流)には大きく2種類ある。マイナス70度の超低温で輸送するものと、2〜8度で運ぶものだ。これから築かれるワクチンの空輸態勢は、大きく差のある2種類の保管温度に対応できなくてはならない。

新型コロナのワクチンを各国が共同で購入し公平に分配するための国際的枠組み「COVAX」は、来年末までに20億回分のワクチン供給を目指している。その空輸態勢とインフラの整備には、180億ドル以上がかかるとみられる。

北米やヨーロッパ、ロシア、中国、日本、東南アジアなどの豊かな国は、この難題にも対応できるだろう。しかしアフリカや中南米、インド亜大陸の国々は、ゼロからインフラ整備を行わなくてはならない。IATAのアレクサンドル・ドジュニアック事務局長が言うように、この空輸計画はまさに「世紀のミッション」だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド船籍タンカーのホルムズ海峡通過許可へ、イラン

ビジネス

エネ価格高騰続けば経済成長下押しへ、ドイツの経済研

ワールド

再送最大の石油供給混乱に直面、IEA指摘 海峡迂回

ワールド

中国全人代、民族団結法可決 中華民族帰属意識を促進
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 2
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃に支持が広がるのか
  • 3
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車整備は収入増、公認会計士・税理士は収入減
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 7
    「邪悪な魔女」はアメリカの歴史そのもの...歌と魔法…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 10
    2万歩でも疲れない? ディズニー・ユニバで足が痛く…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 8
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 9
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 10
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中