最新記事

コールドチェーン

ワクチン開発に成功したら......それをどう世界に運ぶ?

THE MISSION OF THE CENTURY

2020年11月11日(水)17時10分
クライブ・アービング(航空ジャーナリスト)

「一刻の猶予もない」と、このミッションに深く携わるIATAの貨物機担当責任者グリン・ヒューズは筆者に語った。「インフラが不十分な地域は、すぐにも対応に着手すべきだ。おそらく民間企業と軍が協力して進めなくてはならないだろう」

もう1つ深刻な問題がある。ワクチンの輸送に必要な航空貨物容量の不足だ。そう言われても、最近は多くの航空機が地上で待機している光景を目にすることが多いから、不思議に聞こえるかもしれない。

ここで考慮すべきなのは、貨物の空輸に使われるスペースには2種類あるということだ。1つは貨物専用機、もう1つは旅客機の機体下部にある貨物室。現在は旅客便が大幅に減便されているため、下部貨物室を使った空輸能力は通常の3分の1程度にまで減っている。

いま世界では、約1500機の旅客機が貨物輸送用に運航されている。しかしワクチンは特別な温度管理を施したコンテナに入れて下部貨物室で運ぶ必要があり、客席のスペースを使うわけにはいかない。十分な量のワクチン専用コンテナを造るのにも時間がかかる。

そうなるとフェデックスやUPS、DHLのような輸送業者にも出番が回ってくる。フェデックスでは低温輸送のための施設を世界で10カ所増やし、90カ所以上にしたという。

成功させれば将来に生きる

自力でのワクチン供給が望めない国は、低温輸送機能が備わったルートの最も近い場所から入手しようとするはずだ。例えば日本や東南アジア諸国は、仮にヨーロッパや北米から大量のワクチンを購入できる可能性があったとしても、まず周辺地域からの調達を考えるだろう。

中国はワクチンの「自給自足」の必要性を痛感している。しかし自国の空輸能力が極めて乏しいことが分かり、当局者は危機感を抱いた。

中国では新型コロナの感染が拡大した当初、緊急医療物資を国内で円滑に運ぶこともできず、外国で高まっていた需要にも応えられなかったためだ。この問題を解決するため、今「中国版フェデックス」とも呼ぶべき組織を設けようとしている。

中国政府は国内の航空輸送業者に対し、保有する貨物機を互いに協力して効率的に運用するよう指導している。だが最大手の順豊航空でも、60機しか保有していない(フェデックスは大型機だけで398機保有)。中国政府としては今後さらに貨物機を増やしつつ、フェデックスのやり方をまねて地上のサプライチェーンと緊密に連携させたい計画だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中