最新記事

教育

コロナ禍における遠隔教育──新型コロナウイルスで教育のICT化は進むか

2020年7月9日(木)16時10分
坂田 紘野(ニッセイ基礎研究所)

新型コロナウイルスの感染拡大という状況下においても遠隔教育が広がらない要因としては、通信機器をはじめとする、遠隔教育のためのインフラ整備の遅れが考えられる。上述の通り、政府はオンライン環境の整備を急いでいるが、未だ達成には至っていない。また、これまで遠隔教育を実施してこなかった学校が多いため、教員が遠隔授業という経験のない新しい取り組みに戸惑っているケースも多い。遠隔教育の実施のために必要とされるスキルやノウハウは通常の授業と異なることから、時間や手間がかかり、教員の負担は大きくなる。臨時休校のもとでは、すべての自治体が教科書や紙のプリントを活用した家庭学習の指示を行っていたが、自治体や学校ごとの対応に差が生じていた感は否めない。

児童生徒の学習機会を確保するための取組みを行っているのは政府ばかりではない。民間企業もまた、様々な取組みを行っている。例えば、リクルートマーケティングパートナーズ社は自社のオンライン学習サービス「スタディサプリ」を4月末まで学校や自治体に無償提供した。早稲田アカデミーはZOOMを活用した「双方向WEB授業」や「オンデマンド授業」を実施している。対面授業は順次再開しているが、オンライン授業も継続して受講可能とする方針だ。新型コロナウイルスによって学びを止めないためにも、このような民間企業の動きは非常に望ましいと考える。一方で、民間教育サービスは、受けられる人とそうでない人が存在する。コロナ禍という特殊な状況下では、児童生徒によって受けられる学校教育や民間教育サービスの質が異なることで教育格差が拡大してしまう恐れもある。そのため、誰もが受けられる公教育に期待される役割は大きい。

おわりに

5月25日までに全都道府県で緊急事態宣言が解除された。6月1日時点において98%の学校が何かしらの形で学校を再開している。社会が再び動き出し始めたことは非常に喜ばしい。しかし、全国主要市区公立小中学校のうち4割超が短縮授業や分散登校といった措置をとっているなど、まだ完全に新型コロナウイルス以前の状況に戻ったとは言い難い。また、感染の第二波、第三波に対する懸念のように、今後の情勢は今なお予断を許さない。第二波、第三波が到来しないに越したことはないが、到来時(変更前:万が一の事態)にも対処できるよう予め備えておく必要がある。

政府はハード・ソフト・人材が一体となったICT環境の整備を急いでいる。ICT環境の不足が一挙に解消されれば、遠隔教育の大きな転機となりうる。もっとも、遠隔教育を実施できるような環境が整備されたとしても、遠隔教育をどう活用していくか、という課題への取組みはまだ始まったばかりだ。社会のICT化が進む中で、教育とICTがどう関わるべきかの議論は避けられない。今後、教育におけるICT活用は次第に実行段階へと移行していくだろう。そこで出てきた課題を整理し、改善を繰り返していくことで学びのための環境が良くなっていくことに期待したい。

Nissei_Sakata.jpeg[執筆者]
坂田 紘野
ニッセイ基礎研究所
総合政策研究部 研究員

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 6

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中