最新記事

宇宙探査

ボイジャー探査機を越えて太陽系の果てを探査せよ

2019年2月14日(木)17時00分
秋山文野

注目を集めるジョンズ・ホプキンス応用物理学研究所(APL)

ニュー・ホライズンズとDART、そのどちらにも関わっている組織がある。ジョンズ・ホプキンス応用物理学研究所(APL)といい、21世紀に入って水星探査機メッセンジャー、冥王星探査機ニュー・ホライズンズ、太陽のコロナ探査を行うパーカー・ソーラー・プローブなど次々と独創的な太陽系無人探査を達成している。

20世紀の無人宇宙探査の大スターといえば、NASA設立時からのセンターであるJPL(ジェット推進研究所)がある。マリナー探査機によるアメリカ初の金星、火星、水星探査、今も飛行を続けているボイジャー太陽系探査機、双子の火星探査機スピリットとオポチュニティや火星ローバーのキュリオシティ、木星探査機ジュノー、土星探査機カッシーニ・ホイヘンスなど数えきれない探査を実現してきた。JPLは新たな火星着陸機の計画なども進めており、現在でも宇宙探査を牽引する存在だ。一方でAPLはスピーディかつ着実に、大きな探査を達成してきた。

APLが提案する太陽系の果てに挑む探査機

そのAPLが提案しているのが、ニュー・ホライズンズの、またボイジャーの後継機となる探査機を提案している。インターステラースペース(星間空間)を旅する探査機という意味で、インターステラープローブとその前哨機と呼称されている。

ボイジャー1号は打ち上げから41年かけて、太陽から約145AU(天文単位:地球と太陽の距離、およそ150億キロメートルが1AU)を旅して太陽から吹き出すプラズマ(電離したガス)が磁場などにさえぎられる境界「ヘリオポーズ」を越え、星間空間に入ったと見られている。だが、ボイジャー1号の電池は2020年代に寿命を迎えるとされ、飛行は続くとしても、探査は終りを迎える。

APLのインターステラープローブは、ボイジャー探査機の数倍の速度で太陽系を旅し、ヘリオポーズを越えて1000AUの星間空間に50年で到達するというものだ。これまでAPLやNASAが実証してきた技術に加え、超大型ロケットSLSなど今後実現する技術を利用して、超高速で探査を行う。打ち上げは2030年ごろを目指している。1000AUになると、彗星の巣とされる太陽系外縁部、オールト雲の探査も見えてくる。

The-entire-Solar-System.jpg

ヘリオポーズと星間空間 Credit:NASA

インターステラープローブの構想そのものは1960年代からあり、APL以外にも多くの研究者が提唱してきた。APLが具体案を示したのは2017年末、アメリカ地球物理学連合の年次大会でのことで、アメリカの大型宇宙探査計画ディケイダル・サーベイのテーマ入りを目指すという。15兆キロメートルを50年で駆け抜ける星間探査機が計画入りすれば、ボイジャーの意思を継いで太陽系の果てに挑む探査機の旅立ちを目撃できるチャンスはあると期待できそうだ。

PIA17049_hires.jpg

ボイジャー探査機 Credit: NASA/JPL-Caltech

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

オラクル9-11月決算、注目指標が予想に届かず 時

ビジネス

ブラジル中銀、4会合連続で金利据え置き タカ派姿勢

ビジネス

米財政赤字、11月は前年比53%縮小 輸入関税が歳

ビジネス

米金利先物市場、1月据え置き観測高まる 26年に利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中