最新記事

AI新局面

「AIが人間の仕事を奪う」は嘘だった

2018年2月14日(水)20時27分
ケビン・メイニー(本誌テクノロジーコラムニスト)

Illustration by Ben Fearnley

<人間の職を奪うどころか、衛星画像をはじめ、さまざまなデータ解析によって新しい仕事を生み出している>

5年前、シリコンバレーの片隅で人知れず産声を上げた会社がある。その名は「オービタル・インサイト」。創業者はNASAに15年勤め、火星探査機のソフトウエアを開発したジェームズ・クロフォード。退職し、グーグルブックスに在籍していたときのこと、イーロン・マスクのスペースXをはじめとする新興企業の参入で人工衛星の打ち上げ・製造コストが劇的に下がっていく傾向に気付き、これは新しい商機だと確信した。

これから人工衛星の数はどんどん増え、地上へ送ってくるデータや画像もぐんと増える。そうしたデータを収集し、解析すれば有益な情報が得られるはずだ──。そこでクロフォードが開発したのは、世界中のトウモロコシ畑の画像を収集し、作物の生育状況から収量を予測するシステムだ。予想どおり、これには商品先物取引のトレーダーたちが飛び付いた。それから2年、オービタル社は既に7000万ドルもの資金を調達できた。

全ては人工知能(AI)のおかげだ。「15年に初めてコンピューターが人間の認識能力を上回った」とクロフォードは説明する。AIは樹木や船舶を迅速に識別し、膨大な画像やデータに含まれる一定のパターンを見つけ出せる。

AIが発達する以前、衛星データの大半は捨てられていた。煩雑かつ膨大過ぎて、従来のコンピューターのアルゴリズムでは解析に時間がかかり過ぎたからだ。しかしAIならば格段に速く、投資家や投機筋、各種の企業にまでデータを届けられる。

17年前半、オービタル社は膨大なデータの解析から神出鬼没の海賊船の隠れ家を次々と発見した。ビジネスではなく海上の治安に役立ったのだが、同社の技術の高さが証明された。

同年秋には米南部を襲ったハリケーンを、新技術の「合成開口レーダー」(レーダーを移動させて高解像度のイメージをつくる)によるデータを使って解析。ハリケーンで発生する洪水の予測は保険会社にとって貴重な情報となる。海賊船発見とハリケーン観測のおかげで、クロフォードはファンドや銀行から多額の資金を調達できた。同社の技術を使えば、いち早く天然資源やモノの動向についての的確な情報を得られるからだ。

「私たちはスタート地点に就いたばかりで、少しの手がかりを得たにすぎない。とはいえ既に金融、エネルギー、保険市場をはじめ、社会全体への影響を見て取っている」。クロフォードは声明でそう述べている。

オービタル社は急成長中で、データサイエンティストやマーケティングマネジャー、専門の採用担当者などを積極的に雇用している。それだけではない。オービタルのような企業が衛星データを買いあさるため、衛星関連の雇用も増えているのだ。

米衛星産業協会の17年の報告によると、世界の衛星産業の規模は現状で2605億ドルほど。特に地表観測用の比較的安価な小型衛星の需要が急激に伸びているという。つまり多くの雇用が見込まれるということだ。17年12月のリンクトインを見ると、アメリカの衛星産業関連だけで1万1084件もの求人があった。


170220cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版2月14日発売号(2018年2月20日号)は「AI新局面」特集。人類から仕事を奪うと恐れられてきた人工知能が創り出す新たな可能性と、それでも残る「暴走」の恐怖を取り上げた。この記事は特集からの抜粋。記事の完全版は本誌をお買い求めください>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中