最新記事
環境技術

「年間約140億立方メートル」コンクリートの製造過程で生じるCO2の回収・貯留・再利用の技術に高まる期待

Green Cement on the Way

2024年12月6日(金)18時05分
ジェイミー・ゴギンズ(アイルランド国立大学ゴルウェー校理工学部教授)
「年間約140億立方メートル」コンクリートの製造過程で生じるCO2の回収・貯留・再利用の技術に高まる期待

低炭素セメントの製造を手がけるフォルテラの工場(カリフォルニア州レディング) FORTERA

<コンクリート製造過程の二酸化炭素排出を減らし、環境負荷を軽減するための新技術の開発が進んでいる。導入への課題とは?>

水を別にすれば、世界で最も大量に使われている物質はコンクリート。その量は全世界で年間約140億立方メートル。用途の40%は住宅や商業施設、橋梁などの建設だ。

しかしコンクリートの製造過程では、地球温暖化の元凶である二酸化炭素(CO2)が大量に排出される。そしてその90%は、コンクリートを固めるのに欠かせないセメント(ポルトランドセメント)の製造に由来する。ポルトランドセメントは、世界の直接的CO2排出量の7~8%を占める。


これでは持続不能だ。効率的に低炭素セメント(いわゆる「グリーンセメント」)を製造する方法はないのか。

ある。例えば米カリフォルニア州レディングでは、素材技術会社のフォルテラが在来型セメント工場の隣に新たな施設を建設し、工場から排出されたCO2を回収し、それを用いて低炭素のセメント代替物(ある種の炭酸カルシウム)を作ろうとしている。うまくいけば、これでセメント製造時のCO2排出量を70%も削減できるという。

現代の都市生活にコンクリート製の建造物は欠かせない。当然、その建設に不可欠なセメントの需要は減らない。だがCO2の排出量は減らさねばならない。そこで重要になるのが、CO2の効率的な回収・貯留・再利用技術だ。

それがあれば、既存の工場で従来どおりセメントを製造しつつ、そこで排出されるCO2を回収し、それをセメントなどの製造に再利用できる。

newsweekjp20241206023908-f8720022d2b7455076bb97e58941f29c5c07b26f.jpg

フォルテラが製造する低炭素セメント FORTERA

導入には巨額投資が必要

現にノルウェーでは、ドイツのセメント大手ハイデルベルク・マテリアルズがセメント工場の敷地内に炭素回収・貯留施設を建設中だ。この施設では既存工場のCO2排出量の半分に相当する年間40万トンのCO2の回収・貯留が可能と推定されている。

だが、この技術の導入には高額な投資が必要だ。また回収したCO2を地下に貯留する場合は、一定の地質学的条件を満たす必要がある。

EUには排出権取引の仕組みがあり、大量のCO2を排出する企業は金を払って排出権を買わねばならない。しかし国際エネルギー機関の調べでは、それでも過去10年間でセメント部門のCO2排出量はさほど減っていない。

低炭素セメントの製造技術が普及すれば事態は改善されるだろうが、それまでの間はどうすればいいか。まずは資材の効率的な使用を推進し、エンボディド・カーボン(資材・建材の生産から廃棄に至るライフサイクル全体で排出されるCO2の量)が少ない製品を選ぶことだ。これだけでもエンボディド・カーボンを20%は減らせるはずだ。

低炭素セメントの使用を義務付ける手もある。アイルランドでは政府関連の建設事業で可能な限り低炭素の工法や低炭素セメントを使用することが義務付けられている。

将来的に、全てのセメントをグリーンに、つまり低炭素にすることは可能だろうか。容易ではないが、まずは既存のセメント工場にCO2の回収施設を設置し、低炭素セメントの効率的かつ大規模な生産を進めること。政府や業界全体の適切なインセンティブがあれば可能だ。

The Conversation

Jamie Goggins,Professor of Civil Engineering, College of Science and Engineering, University of Galway

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本のCEO
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月1日号(6月24日発売)は「世界が尊敬する日本のCEO」特集。不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者……その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:三菱重工、伝統企業が「グロース」化 防衛

ワールド

アングル:イラン核開発、米軍爆撃でも知識は破壊でき

ワールド

石破首相、NATO首脳会議出席取りやめ 岩屋外相が

ワールド

イラン、外相をロシアに派遣 プーチン大統領に支援要
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中