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うつ病リスクが高い4つの仕事――性格ではなく「環境」が原因だった

2025年9月19日(金)10時57分
高橋倫宗(精神科医)鬼頭智美(臨床心理士)*PRESIDENT Onlineからの転載

逃げたほうがいい人間関係5つ

Q4 人間関係からうつ病になることはありますか?


A 気を遣い過ぎる、気持ちを理解してもらえない、ハラスメントや暴力を受ける、といったことからうつ病を発症することがあります。

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出典=『うつのケツロン


まずは、「上司が自分の立場を利用して無茶な要求をする」「離婚すると脅されるので、夫のわがままを我慢している」「クラスメートにいじめられるので、言いなりになっている」といった自分が我慢しないと続かないような人間関係はうつ病のリスクを高めます。

常に気持ちを押し殺していることが発病につながるのです。こうした振る舞いは社会的に「ハラスメント」として認識されるようになってきましたが、まだまだ十分に改善されているとは言い難い現状があります。

相手の期待に過剰に応えようとして、自分から無理をして相手に合わせることでも同様のことが起こります。相手に認められたいという気持ちが強いために、自分で自分を束縛してしまうのです。

子供の頃に「親からいつも良い子であることを強いられてきた」という背景があり、良い人でいるために無理をすることが癖になっていることもあるようです。

身近な人に自分の気持ちを分かってもらえないこともうつ病につながります。

研究によると、「パートナーに気持ちを理解してもらえない関係が長く続くと、うつ病の発症率が10倍になる(※)」という報告もあります。とくに配偶者にアスペルガー症候群などの神経発達症がある場合、夫婦で情緒的な関係を築くことができないために、うつ病を発症しやすいことが知られています。

※筆者註:O'Leary KD, et al. A Closer Look at the Link Between Marital Discord and Depressive Symptomatology. J Soc Clin Psychol 1994; 13: 33-41

自己犠牲ができる人ほど要注意

これを「カサンドラ症候群」と呼びます。

カサンドラとは、ギリシャ神話の預言者の名前です。真実を知る能力を持ちながら、呪いにより誰からも信じてもらえなくなり、孤独に苦しんだと言われています。その姿が、配偶者と気持ちを共有できずに心を病んでしまう人と似ていることからこの名前がつけられました。

また、「介護うつ病」という言葉があるように、在宅で家族の介護に携わる人はうつ病になりやすいことも知られています。

「在宅で高齢者を介護している人の50%にうつ病の傾向が見られた」という研究報告もあるくらいです。相手に合わせて、常に自分の気持ちをコントロールしなくてはならないために、本音を言えない状況がうつ病のリスクを高めてしまいます。

暴力を伴う人間関係もうつ病に深く関係しています。とくに親やパートナーから暴力を受けることは、体の傷以上に心にも深い傷を残します。研究でも「DV被害者の40〜60%がうつ病を発症した」ということも明らかになりました。これを「DVうつ病」と呼びます。

本来ならば安らぎの場所である家庭において、常に不安と緊張を感じているならば、心を病んでいくのは想像にかたくありません。

ここに紹介したような人間関係は、決して好ましいものではありません。もしそれで悩んでいるならば、一人で抱え込まずに人に助けを求めましょう。

自己犠牲ができる人、我慢強い人ほど、こうした関係を続けてしまい、いつの間にか心が壊れてしまいます。状況によっては逃げることが必要かもしれません。しかし、家族関係の場合は簡単に縁を切ることもできませんので、主治医や臨床心理士・公認心理師などサポートしてくれる第三者に入ってもらいましょう。

newsweekjp20250918064532.jpg高橋倫宗、鬼頭智美著『うつのケツロン』(ライフサイエンス出版)(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
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