最新記事
健康

「質のよい睡眠がとれている人」は「やや太り気味」だった...「地中海食」と「睡眠」の研究

2025年2月13日(木)11時30分
マイケル・モズリー(医師・医療ジャーナリスト)

こうした観察研究の問題点は、食事が健康的だから睡眠の質が高くなるのか、睡眠の質が高いから食事も健康的になるのかがはっきり判断できないということだ。先にも述べたとおり、人には睡眠不足になるとジャンク・フードが食べたくなるという傾向もある。

そこで着目したのが、コーネル大学(ニューヨーク州)が実施したまったく新しい介入研究[*4]である。研究者側が被験者の食事を指定し、その食事が睡眠にどんな影響を与えたのかを分析したのである。


 

この研究では、26人の成人(男性13人、女性13人)に5日間、睡眠研究室で睡眠をとってもらい、睡眠中の脳波を詳しく調べている。このあいだ、被験者は、脂質、タンパク質、炭水化物、繊維質、糖質の量がそれぞれ異なる食事をとっていた。

その結果、飽和脂肪、炭水化物、糖質を多く含む食事をとった人は、眠りが軽くなり、夜中に目が覚めやすいことがわかった。一方、タンパク質や繊維質の多い食事をとった人は、寝つきもよく、深い眠りについていた時間も長かった。

このように地中海食が睡眠を助けるといわれているのには、さまざまな理由がある。
  
1 地中海食におなじみのオリーブオイル、脂肪分の多い魚、豆類、野菜といった食物には、オレイン酸、オメガ3脂肪酸、ポリフェノールなどの抗炎症性化合物が含まれている。炎症は関節炎やその他の痛みを伴う症状を引き起こすため、安眠の妨げにもなる。また、年齢とともに起こりやすくなる神経炎症(脳の炎症)も、睡眠不足や認知症の原因となることが知られている。

2 地中海食は腸内の「善玉菌」を増やしてくれる。善玉菌は、強力な抗炎症性物質や、不安を軽減するという「気分がよくなる」化学物質を生成する。夜眠れない主な原因は、あれこれ思い悩んでイライラすることなので、気分をよくしてくれるものなら、安眠効果もあるはずだ。


【参考文献】
[*1]Adherence to the Mediterranean diet is associated with better sleep quality in Italian adults. Nutrients, 2019.
[*2]Mediterranean healthy eating, aging, and lifestyles (MEAL)study.International Journal of Food Sciences and Nutrition, 2017.
[*3]Mediterranean diet pattern and sleep duration and insomnia symptoms in the Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis. Sleep, 2018.
[*4] Fiber and saturated fat are associated with sleep arousals and slow wave sleep. Journal of Clinical Sleep Medicine, 2016.


マイケル・モズリー(Dr. Michael Mosley)
医師。テレビ・プロデューサー。オックスフォード大学卒業後、ロイヤルフリー病院メディカルスクール(現・ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン医学部)に入学。医師資格を取得後、テレビ・プロデューサーとして英国放送協会(BBC)に入局。BBC、アメリカのディスカバリーチャンネルなどに向けて科学・歴史ドキュメンタリーを数多く制作し、エミー賞など数多くの賞を受賞。医学番組制作に貢献した功績で英国医師会により年間最優秀医学ジャーナリストに選ばれる。「The Fast 800」や『週2日ゆる断食ダイエット』(幻冬舎)などベストセラー多数。


newsweekjp20250212130757-c16dbcd1a22485a8211e3e9577b9195008882dc3.png


 『4週間で誰でも寝つきがよくなる 最速入眠プログラム
  マイケル・モズリー [著]/井上麻衣[訳]
  CCCメディアハウス[刊]

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ

ワールド

米・ウクライナ鉱物協定「完全な経済協力」、対ロ交渉

ビジネス

トムソン・ロイター、25年ガイダンスを再確認 第1

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中