最新記事

ヘルス

医師が「空間除菌グッズは使うな」と警告する理由 気休めにしては危険すぎる

2021年5月17日(月)12時53分
名取 宏(内科医) *PRESIDENT Onlineからの転載

「雑貨」にしては危険性が高すぎる

据え置きタイプについても、インフルエンザの感染予防効果を期待して購入された製品に添付されていたゲル化剤を、1歳9か月の幼児が誤飲しメトヘモグロビン血症を起こして気管挿管までされた症例が日本小児科学会雑誌に報告されています。空間除菌に使用される化学物質の分解生成物が血中のヘモグロビンを酸化させ、異常なヘモグロビン(メトヘモグロビン)を生じさせます(※5)。

成人についても事故の報告があります。38歳男性が呼吸困難のため近医を受診し、酸素飽和度が70%と低下を認め救急病院に搬送されました。呼吸困難発症の数時間前に自宅で空間除菌製剤を使用していたことが判明し、中毒性メトヘモグロビン血症と診断され、輸血や10日間の入院を要しました。この症例でも「新型コロナ感染予防目的のため」空間除菌製剤が使用されています。

適切に使用すればこうした事故は起こらないとメーカーは主張するかもしれません。しかし、感染予防効果が明確ならばともかく、効能があるのかどうかもわからないのに、使い方を間違えれば入院するほどの事故が起きうる製品を使うのは非合理的です。

お守りや気休めにしては危険すぎます。また、これらの事故の被害に遭った消費者が、空間除菌製品は感染予防効果が証明されていない「雑貨」であることを知っていたとしたら、これらの事故は起こっていたでしょうか。このような事故の再発を予防するために、製品に感染予防効果が証明されていないことを周知する道義的責任がメーカーにあると私は考えます。

(※5)Injury Alert(傷害速報)、No. 40 ウイルス除去と称されている製品による中毒(日本小児科学会雑誌2013年5月号)
(※6)上月美穂ほか、COVID-19感染予防目的に二酸化塩素空間除菌剤の使用により中毒性メトヘモグロビン血症を来した1例、日本救急医学会雑誌(0915-924X)31巻11号 Page.1036(2020.11)


名取 宏(なとり・ひろむ)

内科医
医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』(内外出版社)。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、和平に向けた譲歩否定 「ボールは欧州と

ビジネス

FRB、追加利下げ「緊急性なし」 これまでの緩和で

ワールド

ガザ飢きんは解消も、支援停止なら来春に再び危機=国

ワールド

ロシア中銀が0.5%利下げ、政策金利16% プーチ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 8
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中