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「自分らしさ」は探さない──「ありのまま」「あなたらしさ」の落とし穴

2020年4月2日(木)18時25分
Torus(トーラス)by ABEJA

磯野:人は生きていくうえで「誰かに認めてもらいたい」という承認欲求が必要ですし、それを求めるのは自然なことです。その一方で、「自分が周りにどう思われているかを意識するのはよくない」「周りに合わせるのはかっこわるい」というブレーキも働く。

なので、普段は「承認」なんて必要ないという素振りを見せながら、一方でそれを満たす、矛盾した振る舞いをせざるを得ないのが現実です。


現代社会の「当たり前」の一つは、「あなたらしさ」の賞賛です。しかしこの「あなたらしさ」には罠があり、それは「あなたらしさ」を謳歌するためには、その「あなたらしさ」を他者に承認してもらわねばならないという陥穽です。この罠に陥ると、「あなたらしさ」は、不特定多数の他者を強烈に意識した「〈他者の視線に満たされた〉あなたらしさ」にすり替わります。 『ダイエット幻想──やせること、愛されること』(ちくまプリマー新書)より引用

間違えると、「自分」が消費社会の「商品」になる

Torus200311_3.jpg

磯野:「自分らしさ」の罠を考える上で分かりやすい例が、「就活」の自己PRです。

自分を短い時間・スペースでどうPRすべきかを考えると、同世代の競争相手と自分を比べ、どこか抜きん出たところをフックのある一言でまとめたキャッチフレーズを考えざるを得なくなる。

言い換えると、自分にラベルや名札をつけ、それを他者から「価値あるもの」として認めてもらうための努力です。

だから自分探しは、「他人より自分が優れているところは?」という思考回路を導きやすい。「自分」を見ていたはずが、「他者」と比べて、頭一つ抜け出すところに「自分」を見いだしやすくなる。

でもそれは、自分の「商品化」につながると思いませんか?

「自分」の使い方を間違えると、消費社会に「自分」を「商品」として無造作に投げ込むことになってしまう。そういう落とし穴が見過ごされたまま、「自分らしさ」がやたら謳歌、称賛されているのは、見ていて危ういなと思うことがあります。

「逸脱しない私」を求め身体をイジる

──摂食障害の当事者のインタビューや調査を続けてこられました。

磯野:インタビューをまとめた本(『なぜふつうに食べられないのかー拒食と過食の文化人類学』)を書いた時には、「やせたい」という気持ちから人は逃げられるのではないかと漠然と思っていました。

でも、どんな社会にもある種の「理想体形」があって、それを参照点に人が動くのは、わたしたちが身体を持って、コミュニティで生きている限り、逃れられない運命なのだと考えるようになりました。

自己管理が称賛され肥満が治療の対象とされる社会で、痩せている体が理想なのはある意味仕方のないことではあります。でもマーケットが過剰にあおっている側面もあるということは、ある程度知っておいた方がいい。

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