アングル:中国軍機レーダー照射、日中に新たな波紋 関係改善は一層厳しく
写真は日中の国旗のイメージ。2022年7月撮影。REUTERS/Dado Ruvic
Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto
[東京 8日 ロイター] - 中国軍機による自衛機へのレーダー照射事案が日中関係に新たな波紋を呼んでいる。日本政府内には高市早苗首相による台湾問題発言への揺さぶりとの見方が広がり、中国による危険行為を国際社会にアピールする機会にしたいとの声もある。両国の意見は食い違ったままで、関係改善の兆しは一層見えなくなっている。
<偶発的衝突に直結しかねず>
防衛省によると事案が発生したのは6日午後。中国海軍の空母「遼寧」から発艦した中国軍のJ─15戦闘機が、沖縄本島南東の公海上で航空自衛隊のF─15戦闘機に対して断続的にレーダーを照射した。特に2回目は照射時間が約30分間と異例の長さだったという。
小泉進次郎防衛相は7日未明、事案を発表した上で「航空機の安全な飛行に必要な範囲を超える危険な行為だ」と述べ、「極めて遺憾で中国側に強く抗議し、再発防止を厳重に申し入れた」ことを明らかにした。
v 中国軍機による自衛隊機へのレーダー照射を防衛省が公表したのは初めてだ。火器管制レーダーであれば攻撃の直前段階とも解釈され、偶発的な衝突に直結しかねない非常に危険な事案との考えが念頭にある。外務省も同日、船越健裕事務次官が中国の呉江浩駐日大使を呼び出し、厳重に抗議したことを明らかにした。
高市首相は7日、レーダー照射について「極めて残念だ」とし、「冷静かつ毅然と対応していく」と語った。
<両政府が反論の応酬>
一方、中国側は反論している。海軍の報道官は自衛隊機が訓練中の中国海軍に何度も接近して妨害したと指摘。「日本の主張は事実と矛盾している」と述べた。これに対し木原稔官房長官は8日午前の記者会見で「自衛隊は安全な距離を保ちながら対領空侵犯措置の任務に当たっていたと報告を受けており、自衛隊機が中国の航空機の安全な飛行を深刻に阻害したとの中国側の指摘は当たらない」と改めて述べ、両国の主張は真っ向から対立している。
日本政府内には、今回のレーダー照射が高市氏の台湾問題発言と関連しているとの分析が広がっている。高市氏は11月7日の国会答弁で、台湾問題が日本の存立危機事態に当たり得るとの考えを表明。中国側は激しく反発し、外交ルートを通じて繰り返し発言の撤回を求めてきた。
高市氏は同月25日、米国のトランプ大統領との電話首脳会談で日中関係悪化のさらなるエスカレーションを望まないとの考えを伝えられた一方、自身の発言はその後も撤回していない。日本政府や与野党の中にも「撤回すれば中国を利することになる」などとの声がある。
日本外務省関係者は「レーダー照射の意図はわからないが、中国側が依然として高市氏の発言撤回を求め続けているのは事実だ」と語った。
<中国の「多数派工作」に対抗か>
中国によるレーダー照射事案は過去にもあった。2012年、日本が実効支配し、中国も領有権を主張する尖閣諸島(中国名:釣魚島)を日本政府が国有化。それを受けて悪化した両国関係を象徴するように翌13年、日本政府は中国艦船が海上自衛隊の護衛艦に火器管制レーダーを照射したと発表した。
両国関係悪化のタイミングで起きた点は、今回の事案と重なる部分もある。ある日本政府関係者は今回の発表に至った経緯について、「中国にひどいことされていると、各国に広く知ってもらいたいという判断だ」と解説する。中国の習近平国家主席がフランスのマクロン大統領に中国への支持を求めるなど「多数派工作」を行う中で、国際社会の日本への理解を広げる狙いがあるというわけだ。
元自民党幹部職員で政治評論家の田村重信氏は今回のレーダー照射事案の背景として、習近平政権に「いま日本に対してきついことをしても、トランプ米政権が中国に対して強く出てこない」との読みがあると見る。
「中国にとっては国内経済悪化による国民の不満が習政権に向かうのを回避する必要がある」と指摘。「日本としても、高市政権の支持率が非常に高いために台湾問題発言の撤回ができない状況だ」とし、両国がそれぞれ抱える国内事情も問題を複雑にしていると語った。
今後については、「日中関係は経済、人的交流など様々だ。双方が冷静に対処し、総合的に関係を発展させていくことが必要だ」と話した。
(鬼原民幸、竹本能文 編集:石田仁志)





