吸血鬼スリラー×黒人差別...新感覚ホラー『罪人たち』は娯楽映画なのに「歴史への考察」が魅力?
Not Your Average Vampire Thriller
一方で、兄弟はそれぞれ、かつて愛した女性と再会する。スタックの元恋人、メアリー(ヘイリー・スタインフェルド)は白人として生きる混血女性だ。裕福な白人男性と結婚して他州に住んでいるが、母親の葬式のため故郷に帰ってくる。
スモークの疎遠になった妻アニー(ウンミ・モサク)は小さな店を経営し、ブードゥー教の伝統的な民間療法や魔よけを得意にしている。
流血の惨事が最後の最後に起こる映画にふさわしく、バンパイアが登場するのはようやくこれからだ。
ダンスが盛り上がるさなか、白人3人が酒場の扉をたたく。彼らのあまりにも友好的な態度を(賢明にも)怪しく思った兄弟は入店を拒否するが、3人組はその場を離れない。
可能性の限界に挑んで
直に判明するように、3人のリーダー格のレミック(ジャック・オコンネル)は強力な吸血鬼で、一種のカルト集団をつくろうとしている。彼ら白人バンパイアが何より求めているのは、黒人を仲間に引き入れること。
血を吸われて「転向」すれば、人種差別のない調和と平和の中で永遠に生きられるというレミックの主張には、心がざわつく。
そこに込められた寓意には多面的な深みがある。連想するのは、ジョーダン・ピール(Jordan Peele)監督の傑作ホラー映画『アス(Us)』と『NOPE/ノープ(Nope)』だ。両作もジャンル映画のお約束を用いて、人種的アイデンティティーや制度的差別というテーマを掘り下げている。





