最新記事
日本文化

漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ日本の伝統文化? カギは大手メディアが仕掛ける「伝検」

2024年9月26日(木)17時00分
小暮聡子、澤田知洋(本誌記者)

newsweekjp20240926071044-44fef3e54283cbd77bc50eed9374f97a7d1c3502.jpg

震災で壊滅的な被害を受けた石川県の輪島塗 GYRO/ISTOCK

2度目の危機のほうがはるかに深刻だ。西洋の大量生産の工業製品は経年劣化する。完成した時点が最高の品質で、だんだん劣化していく。一方で日本の伝統工芸の良さは経年美化と言って、メンテナンスは必要だが、時間の経過と共に美しさが増していく。

例えば代々使ってきた箪笥は、受け継がれていきながら磨かれ艶を出していく。しかし核家族化が進み、実家にあった古い物は家族がばらばらになると廃棄処分されていった。


また、衰退の大きな理由の1つに、学校で日本の伝統文化をほとんど教えてこなかったことがある。自分の国の文化なのに、具体的な教科もないし教える先生がいない。

かろうじて美術で日本画を教えることはあるかもしれないが、実際に使う機会もなければ鑑賞する機会も減っているので、その価値が分からないまま忘れられていく。

――若い層が伝統文化の価値を学ぶのに、検定は一役買えそうか。

時事通信社は日本語検定にも設立時からかかわっているが、残念ながら受験者数が減っている。

漢検(日本漢字能力検定)と英検(実用英語技能検定)は別格で、学校の入学試験や就職試験という具体的かつ実利的なメリットがあるから学生も受けるのだが、教養系や趣味系の検定はどこも苦戦している。

一方で、若い人たちが伝統文化の価値に気付くためには、やはり勉強しないと分からないとも思う。伝統文化を学んで何のメリットがあるのか、と思われるかもしれないが、例えば観光業に携わる方や百貨店の店員、料理人の知識の幅を広げる意味では実利的だ。

時事通信社のビル1階に「銀座うかい亭」という鉄板焼きのお店があるが、うかいさんも伝検を支援する会員になってくれた。社長さんが、従業員の成長を促したいと。

お店では良い器を使っているが、その器の説明も出来ないようでは駄目だろうとおっしゃっていた。伝統文化にはストーリーがあるので、知っていればお客さんとの会話の幅も広がるかもしれない。

会員制度はまだ始まったばかりだが、プリンスホテルを展開し美術館なども持つ西武ホールディングスも、従業員の教育のためにと会員になってくれた。

ほかには歌舞伎の制作・興行を手掛ける松竹や、各地の工芸品の産地巡りツアーなどを企画する日本旅行、英字新聞で日本文化を発信しているジャパン・タイムズ、昨年夏に社会貢献活動として伝統工芸を支援する「MUFG工芸プロジェクト」を立ち上げた三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)も会員になっている。

伝験には3級・2級・1級の3つの段階がある。3級・2級は知識中心の問題になるが、(2級合格者が受けられる)1級は日本の伝統文化の歴史や存在意義を語り伝えられる「アンバサダー」にふさわしい合格基準を設けたいと考えている。3級や2級で基礎と応用の知識があること、1級でより深い知識を語れることを示せれば、就職活動にも使えるかもしれない。

外国に住んでいる日本人から、受験したいという問い合わせも何件かあった。その国で日本のことを聞かれてあまり答えられなかったから学びたい、ということだろう。多くの人に似たような経験があると思うし、日本の伝統文化は国際人必須の教養とも言える。伝検は海外留学や海外赴任を控えている人たちにもおすすめする。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

LSEG、第1四半期収益は予想上回る 市場部門が好

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中