最新記事
日本文化

漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ日本の伝統文化? カギは大手メディアが仕掛ける「伝検」

2024年9月26日(木)17時00分
小暮聡子、澤田知洋(本誌記者)

newsweekjp20240926073256-ccd4e451167a10425b224f96ca6d2cbdc32439f4.png

   新紙幣の千円札にデザインされた葛飾北斎の「冨嶽三十六景神奈川沖浪裏」STANISLAV KOGIKU―SOPA IMAGES―REUTERS

――逆に、インバウンドで外国から来る人たちのほうが日本文化に詳しいと聞く。

来日した中国人から聞いた話だが、日本の伝統文化に対する何か嫉妬に似た羨望すらあるようだ。中国国内には戦乱と革命で打ち壊されてほとんど残っていないものが、遣唐使や遣隋使が持ち帰った文物が日本に根付いており、しかも独自の要素を付け足しながら発達してきた。それを見るととても悔しい、と。日本の文化に対するあこがれのようなものがあるとも聞いた。

例えば、南宋時代に中国で作られた「曜変天目」という茶碗は現存するものが世界に3つしかなく、その全てが日本の国宝に指定されている。日本に持ち込まれて以来、日本が保管してきたが、中国にはない。


北京にも(国立博物館にあたる)故宮博物院はあるが、蒋介石が良いものを台湾に持って行ったため、台湾の故宮博物院のほうがよっぽど充実しているとも言われる。日本の伝統工芸品も、価値が分かる人がいなければ失われるか、流出していくだろう。価値が分かる人を育てることが重要だ。

――観光庁の訪日外国人消費動向調査によると、今年4~6月の民芸品・伝統工芸品の購入者単価は1万3202円と、コロナ禍前2019年同期の8730円に比べて51%増えた。地方を訪れる外国人旅行者が伝統工芸品を買ったり、作ったりすることも人気のようだが、インバウンド活況の今、伝統文化には商機もあると考えるか。

インバウンドで来日する人の中には、非常に高価な伝統工芸品を買っていく人もいる。東京・青山にある、日本の伝統工芸品を数千点扱う「伝統工芸 青山スクエア」は連日、外国人観光客でごった返している。

今後、人の手で作られるものがどんどんなくなっていくなかで、新聞もそのうち伝統工芸のように経済的に余裕のある人しか手に取らない媒体になるかもしれない。報道機関として脅威に感じているのは、人口減少で日本語を読む人が毎年1%弱ずつ減っていくこと(2023年の新聞発行部数は前年比7.3%減)。では、英語圏にも興味を持ってもらえるコンテンツはあるのか。

日本の政治経済ニュースは英語でほとんど読まれないが、文化はまだ可能性がある。漫画やアニメといったサブカルチャーは既に世界中を席巻しているが、ひょっとしたら伝統文化も、日本の強力なコンテンツになり得るかもしれない。

伝検の出題範囲は8ジャンルで、伝統工芸である「陶磁器・ガラス」「金工・木漆工」「和紙・染織」「建築・庭園・美術」と、伝統文化の「伝統色・文様」「茶道・和菓子・日本茶」「食文化・歳時記」「芸能」。浮世絵も美術の出題範囲に含まれるが、折しも2025年のNHK大河ドラマは、江戸時代に版元として浮世絵の黄金期を築いた蔦屋重三郎を描いた物語だ。

蔦屋は、喜多川歌麿の代表作「寛政三美人」の出版・宣伝・販売を手掛け、ほかにも葛飾北斎などを発掘して「江戸のメディア王」となった。

19世紀ヨーロッパの印象派に影響を与えた北斎は、日本以上に国外で絶大な人気を誇る。来年は日本にも浮世絵ブームが来るかもしれないし、今からでも伝統文化を学んで損はない。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中