最新記事
映画

最後は「ボールの行方」から目が離せないはず...映画『チャレンジャーズ』が描く「スポーツとエロス」

A Pulse-Pounding Tennis Movie

2024年6月14日(金)18時41分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)

newsweekjp_20240614022857.jpg

©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED. ©2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

撮影は『君の名前で』でグァダニーノと手を組んだサヨムプー・ムックディプロームだ。その甘美な映像は、主役トリオの官能性と身体性を際立たせている。『君の名前で』と同様、本作は美しい体や顔を鑑賞してもらいたいという欲望を隠さない。

ゼンデイヤと、映画『ウエスト・サイド・ストーリー』のリフ役で注目されたフェイスト、ドラマ『ザ・クラウン』で英皇太子時代のチャールズを演じたオコナーは、それぞれに魅力的だ。平静で洗練されたゼンデイヤ。優雅でダンサーのようなフェイスト。小汚さが素敵なオコナーの不良っぽい笑顔は、若き日のニコラス・ケイジを思わせる。

男女3人の間を循環する欲望の正体は異性愛か、同性愛か、それともバイセクシュアルなのか。答えを特定することに、グァダニーノは超越的なほど無関心のようだ。

男性2人が争うのは、同じ女性を追い求め続けているからであり、彼らが互いに引かれ合っているからでもある。とはいえ、これは2人の「隠れゲイ」が抑圧してきた性的真実に目覚める物語ではない。

過去の名作映画でも描かれてきたスポーツに宿るエロス

10代当時を振り返る序盤で、タシは2人の少年が互いにキスをするよう仕向け、チェシャ猫のような笑みを浮かべて彼らを見守る。別の映画なら、この先は2人の関係に焦点を当てるだろうが、本作が探ろうとしているのはより間接的で、より倒錯した三角関係だ。

競技と恋愛を両立するため、3人は性的欲望を勝利の原動力に変えなければと感じる。健全とは言えない欲求だ。それは時に逆方向に変化し、破壊的な結果をもたらす。

トップアスリートの日常的な身体活動に織り込まれるエロチシズムは、恋愛とスポーツを結び付けた過去の名作を思い出させる。例えば、野球選手らの三角関係を描いた『さよならゲーム』(1988年)や、女子陸上競技選手同士の恋愛をテーマにした『マイ・ライバル』(82年)だ。

『チャレンジャーズ』は、最も心理的洞察に優れたグァダニーノ作品とは言えないかもしれない。登場人物は時に、個性を持つ生身の人間ではなく、チェスの駒のようにみえる。それでも、グァダニーノが手がけた映画の中で最もペースが速く、最高に楽しめる作品なのはほぼ確実だ。

クライマックスを迎える頃には、フィルズ・タイヤタウン・チャレンジャーの決勝戦が持つ意味は明らか。筆者のようにスポーツに興味のない人でも、観客席のタシと同じく、蛍光グリーンのボールの行方から目が離せないはずだ。

©2024 The Slate Group

CHALLENGERS
チャレンジャーズ
監督/ルカ・グァダニーノ
主演/ゼンデイヤ、ジョシュ・オコナー
日本公開中

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国、仏の対中関税提言に反発 対抗措置示唆

ワールド

ハイネケン、最大6000人削減へ ビール需要低迷

ワールド

カタール首長がトランプ氏と電話会談、緊張緩和協議 

ワールド

欧州評議会、元事務局長の免責特権剥奪 米富豪関連捜
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    崖が住居の目の前まで迫り、住宅が傾く...シチリア島…
  • 7
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 8
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 9
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 10
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中