最新記事
大河ドラマ

「源氏物語の作者は男好きだね...」藤原道長のイジりに紫式部が返した言葉とは?

2024年3月12日(火)12時25分
山口 博 (国文学者) *PRESIDENT Onlineからの転載

読者から見事に作家へ転身

宇治の大将薫は『源氏物語』後編、いわゆる宇治十帖の主人公で、光源氏の若妻女三宮が柏木衛門督という藤原氏の男と密通して生まれたのだが、表向きは光源氏の子だ。

その薫に愛された浮舟は光源氏の従妹で、宇治十帖のヒロイン。薫の寵愛を受けながら光源氏の外孫に当たる匂宮とも関係を持ってしまい、二人の貴人の愛の板ばさみに苦しみ、自殺を決意したが果たせず出家。薫の愛を拒み続ける。

このような、はかなく美しい夕顔や浮舟に孝標の娘は憧れた。

高じてくると、多分自分が夕顔や浮舟になったつもりで物語を書くようになったのだろう。『夜半の寝覚』『御津の浜松(浜松中納言物語)』『自ら悔ゆる』『朝倉』などを書いたと伝えられている。『夜半の寝覚』は現存部分だけでも五巻あり、かなりの長編であったらしい。

『浜松中納言物語』は全六巻もあり、首巻を欠くが現存する。

『源氏物語』、特に宇治十帖の強い影響を受けている物語である。『自ら悔ゆる』『朝倉』は散逸して現存しない。やや低俗な読者から脱皮し、見事に作家に転身したのだ。

貴人に愛される夕顔や浮舟のようになりたいという彼女の夢は、三十三歳で下野守橘俊通との結婚で潰えてしまったが。

img_3931c0335546f018d529a441877b6933433608.jpg

千葉県市原市、 五井駅前にある菅原孝標女の銅像(画像=Craford/CC-BY-SA-3.0-migrated-with-disclaimers/Wikimedia Commons

「登場人物は誰?」宮中をにぎわせたモデル問題

世間一般と異なり、狭い宮廷であり、そこに評判小説が流布すると、おしゃべり好きの女房たちの中で、モデル問題が生じるのは必然だ。

紫上のモデルは、公任でなくても藤式部自身と考えたくなり、作者は「紫式部」と呼ばれるようになる。だが、藤式部は自分ではないと否定した。

その理由は、周りには光源氏のような方はいないから、という。そうすると、同時代に光源氏のモデルもいないわけだが、それでは収まらない。

私も女房になった気持ちで、光源氏モデル詮索に参加してみよう。

A女房「光源氏様のモデルは、私たちと同時代のイケメンで色好み、そして歌の上手な藤原実方様よ」

B女房「違うわ。実方様は藤原で源ではないし、天皇の皇子ではないわ。官位だって正四位下で左近衛中将という中流階級よ。左遷されたのは北の陸奥だし、赴任先で落馬して非業の死を遂げたのだから、光源氏様とは全く違うわ。光源氏様のモデルは絶対に、醍醐天皇の皇子の西宮左大臣源高明様よ」

私は、B女房説に味方して、光源氏と源高明の類似点をまとめてみよう。

img_eba501437ec21dd5cfb403f24e8e9560576216.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも

ワールド

トランプ氏、イランに直ちに協議呼びかけ 「戦いに勝
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中