最新記事
小澤征爾

独占インタビュー:師弟関係にあった佐渡裕が語る、「小澤先生が教えてくれたこと」

A Tribute to My Maestro

2024年3月2日(土)11時48分
佐渡 裕(指揮者)

240305p28_SDI_03.jpg

2023年4月に新日本フィルの第5代音楽監督に就任した佐渡裕 ©PETER RIGAUD C/O SHOTVIEW ARTISTS.

タングルウッドのオーケストラで練習しているところに、小澤先生が見学に来られた日のことは忘れられません。ラベルの曲だったと思うんですが、私は一生懸命下手な英語で「ここはこうしてくれ」とか「ああしてくれ」と楽団員に指示していたんですね。すると、終わってから舞台の裏に来られた小澤先生に、激しいけんまくでこう言われました。

「お前はその指揮で音楽を示せ!」

言葉ではなく、腕と身体で音楽を示せということなんですね。役者じゃないんだから、しゃべる必要なんてない。練習では、無意味な話をする必要など全くない。重心を低くして、もっと低い腰の位置で指揮しなきゃいけないと。

年数と共に成熟していった

練習の後、ご自宅に誘われました。まだ15歳だった娘の征良(せいら)ちゃんと一緒に、トラックのようなゴツい車に乗せられてご自宅に行きました。

お茶を入れていただいて、「あんたいま何してんの?」と尋ねられました。当時、日本での私は、アマチュアの学生オーケストラや高校の吹奏楽部の指揮、あるいはママさんコーラスの指揮をいくつも掛け持ちし、多い日は1日4カ所で振っていた。そこそこ収入はあります──そう話をしたら、小澤先生にこう一喝されました。

「あんたねぇ、ばかじゃなかったら、いま親のすねかじってでも勉強しなきゃ駄目でしょ。全てやめて留学しなさい」

その後、先生のアドバイスどおりウィーンに留学することになりますが、その前に1年弱、小澤先生が日本に帰られているときは勉強させてもらうことになりました。

新日本フィルのアシスタントコンダクターとして、オルフの「カルミナ・ブラーナ」やオペラ「サロメ」などのプロジェクトに参加しました。

桐朋学園の指揮クラスを先生が教えられるときには見学させてもらいました。桐朋学園は、小澤先生の師匠である齋藤秀雄氏の指揮法の総本山です。学生たちは一生懸命齋藤メソッドで厳格に指揮棒を振る練習をしています。正直なところ、それ自体には私は興味は持てませんでした。ある日、小澤先生が「佐渡君ちょっと振ってごらん」って言われて、学生たちの前でベートーベン「交響曲第2番」の冒頭を振りました。すると先生はこうおっしゃった。

「こいつはさぁ、汚い棒振るんだけど、いい音するんだよね」

もはや褒められてないのは分かっているのですが、それが自分のスタイルかなぁとは思い定めました。

当時の私とは違って、小澤先生は指揮棒を扱うことがものすごくうまかった。こんなにも正確にきびきびとオーケストラが仕上がるということに、アメリカでもヨーロッパでも、「小澤征爾」の登場は驚きの出来事だったと思います。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中