最新記事
動物

なぜネコ科の動物でライオンだけが群れを作る? メス達の欲求に応えないオスは追放、20秒の交尾を毎日50回1週間も繰り返す

2023年6月27日(火)20時05分
田島 木綿子(国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹) *PRESIDENT Onlineからの転載

普段は働かないがいざというときは命がけで縄張りを守る

ろくでもないヒモ男みたいな印象であるが、ライオンのオスはオスで、群れを守るために日々神経をすり減らしている。縄張りを絶えずパトロールし、群れを狙う侵入者があれば威嚇してすみやかに追いやる。

それでも相手が向かってきたら、売られた喧嘩は必ず買わなければならない。それが群れを支配するオスの使命だからだ。縄張りを主張する手段は、基本的に尿や糞などでニオイをつけること(マーキング)で成り立つ。

メスにとっても、群れを乗っ取られたら、自分の子どもたちも皆殺しにされてしまう。安心して子育てするためには、普段ごくつぶしのオスであっても、強ければ「まあ仕方がないか」といった感じなのだろう。

ネコ科でライオンだけが群れを作るのはなぜか

そもそも、ネコ科動物の中で唯一ライオンだけが群れで暮らす理由は、①狩りをするときに集団のほうが有利なため、②群れを乗っ取ろうとするよそ者のオスから子どもを守るため、と説明されることが多い。

しかし、動物学者ジョナサン・スコットらの調査では、この2つの説に疑問が投げかけられた。まず①については、集団でも狩りの成功率は高くなかったうえ、成功したとしても多数で分け合うと各配分は限られてしまうため、メリットが少なくなる。

②の説では、単独で暮らすトラやヒョウも、よそ者のオスが子どもを殺す習性があるため、この2つの説によってライオンが群れをつくる理由にはならないと結論づけられた。

そこで注目されたのが、縄張りの"地の利"である。同調査によると、28のライオンの群れを観察した結果、水や食料が最も手に入りやすい場所を縄張りにしている群れが、最も繁殖率が高かったという成果である。

つまり、健康第一な繁殖に適した場所を守るために、リーダーオスを中心にライオンは群れで暮らす習性を身につけたのではないかということらしい。

メスの欲求に応えられないオスなんて用無し

オスがその群れを守っている反面、やはりライオンにおいても、交尾の主導権はメスが掌握している。メスが誘えばオスは絶対に断れない。

ライオンの交尾は数秒で終わるが、陰茎のトゲはメスの膣を傷つけることもあるので、陰茎を引き抜くときに、メスはその痛みのために甲高い鳴き声をあげることもある。加えて交尾中、オスはメスの首筋を噛んで抑え込むことも多く、メスにとってはただただつらい行為のようにも見える。それでも、交尾を終えると、メスは再び同じオスまたは別のオスと交尾を繰り返し、妊娠を確実なものとする。

メスはメス同士で子育てをするために同時期に出産する場合が多い。ということは、子どもの自立時期も重なる。育児中は決して発情しないメスだが、子どもたちが自立すると、ほぼ同じ時期に発情を開始する。発情したメスたちは、オスの顔にお尻を近づけてニオイを嗅がせて交尾に誘う。

SDGs
2100年には「寿司」がなくなる?...斎藤佑樹×佐座槙苗と学ぶ「サステナビリティ」 スポーツ界にも危機が迫る!?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏小売売上高、9月は前月比0.1%減 予想外

ビジネス

日産、通期純損益予想を再び見送り 4━9月期は22

ビジネス

ドイツ金融監督庁、JPモルガンに過去最大の罰金 5

ビジネス

英建設業PMI、10月は44.1 5年超ぶり低水準
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 7
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 8
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 9
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中