最新記事

映画

「何を見せたいか」を心得るスピルバーグによる自伝的映画は、やはり「してやったり」な出来ばえ

Spielberg’s Coming of Age

2023年2月28日(火)10時49分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
ミシェル・ウィリアムズ

サミー(中央)は両親に連れていってもらった劇場で映画に夢中になる。母ミッツィ(右)を演じたウィリアムズはアカデミー賞主演女優賞の候補 UNIVERSAL PICTURESーSLATE

<名監督が子供時代を振り返った『フェイブルマンズ』は、いじめや両親の不仲を乗り越えたスピルバーグの成長譚。ある「伝説的映画監督」との出会いが気になる...>

スティーブン・スピルバーグ監督の新作映画『フェイブルマンズ』(日本公開は3月3日)は自伝的な物語だ。1950年代、愛はあるが壊れかけた家庭に育った少年が、映画監督への道を歩み出す。

アカデミー賞で作品賞など7部門にノミネートされたこの映画には、映画ファンの郷愁を誘う要素がそろっている。

撮影監督ヤヌス・カミンスキーによる温かみのある映像の中で、スピルバーグの分身であるサミー少年は映画館に足しげく通う。8ミリカメラで西部劇や戦争映画を撮り、家族やボーイスカウト仲間をあっと言わせる場面もある。

だが映画へのラブレターと見えて、この作品にはトゲがある。これは人心掌握にたけた若き芸術家の肖像。スピルバーグは数十年来、観客を魅了しその感情をもてあそんでいるとの批判を浴びてきた。

トニー・クシュナー(『ミュンヘン』)の脚本は、幼いサミー・フェイブルマン(マテオ・ゾリオン・フランシスデフォード)が映画の力を使って根源的な恐怖と欲望をコントロールする様子をストレートに描き出す。

サミーと母との関係も浮かび上がる。ピアニストになる夢を諦めて家庭に入った母ミッツィ(ミシェル・ウィリアムズ)は、夢を追う息子を全力で応援する。

生まれて初めて劇場で映画──1952年の『地上最大のショウ』──を見たサミーは列車の脱線シーンに怯え、黙り込む。

ミッツィは息子がおもちゃの汽車で事故を再現しても、それを止めるどころか父親のカメラで撮影してはどうかと勧める。こうしてサミーは恐怖を克服し、一生ものの情熱と出会う。

やがて一家は技師の父バート(ポール・ダノ)の仕事の都合で、オハイオ州からアリゾナ州フェニックスに越す。砂漠の町でミッツィは孤独を深め、心を病む。

一方、10代のサミー(青年期を演じるのはガブリエル・ラベル)は映画作りの才能を開花させる。映画館でハリウッド大作を貪るように見ては、自分流にリメーク。キャストは友人や3人の妹たちだ。

カメラはサミーの意識にそのままつながっている。家族を映像に記録するという行為は両親の不仲がもたらす痛みから自分を守る壁であり、同時に両親の関係を明確に見せてくれるルーペでもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、北朝鮮にドローン技術移転 製造も支援=ウク

ビジネス

米6月建設支出、前月比0.4%減 一戸建て住宅への

ビジネス

米シェブロン、4─6月期利益が予想上回る 生産量増

ビジネス

7月ISM製造業景気指数、5カ月連続50割れ 工場
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 3
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経験豊富なガイドの対応を捉えた映像が話題
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 7
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 8
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 5
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中