最新記事

映画

ゲイの男性と実親を知らない青年が「父と息子」に...映画『二十歳の息子』が見せる「普通」とは違う家族の形

An Offbeat Father and Son Story

2023年2月10日(金)14時00分
大橋希(本誌記者)
『二十歳の息子』

一緒に暮らし始め、新たな関係を少しずつつくっていく網谷(右)と渉 ©JYAJYA FILMS

<養護施設で育った20歳の青年と、支援団体で働く同性愛の男性が父子として再出発する>

両親を知らずに児童養護施設で育った渉と、養子縁組で彼の父になった網谷勇気を追ったドキュメンタリー映画『二十歳の息子』(島田隆一監督)が2月11日に公開される。同性愛者の網谷は施設の子供たちの自立支援団体で働くなかで、渉と出会った。

映画は2人の日常を淡々と描きながら、児童虐待や同性愛、家族や社会についても考えさせる。「一般的な家族像を目指すつもりはなかった」という網谷に、本誌・大橋希が話を聞いた。

◇ ◇ ◇


――網谷さんは企業の社員を経て、児童養護施設の子供たちの自立支援団体ブリッジフォースマイルで働くようになった。

何度か転職するうちに株式会社で働くのは向いていないと思い、利益より人を優先するNPOやソーシャルベンチャーを探すようになった。14年度からブリッジフォースマイルで働いています。

自分が生きていく上でのテーマの中に「目に見えにくい生きづらさを抱えた人たちと関わりたい」というものがある。実は児童養護施設で暮らしている子供たちのことはよく知らなかったのですが、彼らも「カミングアウトジャンル」にいる、「言わないと分からないもの」を抱えた人たちなんだと気づき、関心がわいたのがきっかけです。やりがいもあるし、自分の特性にも合っている。いい業界と出会えたと思う。ただブリッジフォースマイルは3月末で辞めて、児童養護施設で働く予定です。

――島田隆一監督との出会いは?

監督は長い友達なんですよ。それで、仕事で渉と関わるなかでの僕の考えや思いを彼に吐露していた。いつも特定の子の話をしているのは分かっていたと思う。その子と養子縁組をすることになったけど撮る? って僕から聞いて、撮影が始まった感じですね。

――渉さんを友達や支援者として支えていくこともできるが、なぜ養子縁組を。

両親を知らず、ふわふわしている彼はどこかにちゃんとつながりがあったほうがいいと思っていた。それに(養子縁組の)制度に引っかければ、支援者や友達とは違い、彼が行方不明になってどこかで死んでしまっても連絡が来る。生きているか死んでいるかをちゃんと知っていたかったんです。

彼が価値観を変えてくれたというのもある。人生で初めて「長生きしたい」と思うようになった。彼と一緒にいるタイミングでたまたまそう思ったのか、彼だからこそ思ったのかは分からないけど、少なくとも30歳の渉が見たい、それには長生きしないと、って。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米特使がガザ訪問、援助活動を視察 「食料届ける計画

ビジネス

ドル・米株大幅安、雇用統計が予想下回る

ビジネス

米労働市場おおむね均衡、FRB金利据え置き決定に自

ビジネス

米7月雇用7.3万人増、予想以上に伸び鈍化 過去2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 2
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 3
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経験豊富なガイドの対応を捉えた映像が話題
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 5
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中