最新記事

スポーツ

プロ転向を表明した、羽生結弦の「第2章」がいよいよ開演

A New Freedom To Shine

2022年7月27日(水)12時41分
茜 灯里(作家、科学ジャーナリスト)

当時の羽生は、既に現在の姿を彷彿させる。4回転ジャンプこそないが3回転半ジャンプは安定し、世界ジュニア選手権のフリーでは冒頭で60センチの高いジャンプを跳んだ。ジュニアの演技は間延びして見えがちだが、彼はショートプログラム(SP)とフリースケーティング(FS)で全く曲想の違うプログラムを演じ分け、観客を飽きさせない。

しかも15歳当時で169センチ、柔軟性も高い。フィギュアファンは「技術、表現力、スタイルの三拍子そろった男子選手が現れた」と歓喜した。

10-11年からはシニアに上がり、順調に成績を伸ばす。だが東日本大震災が発生し、ホームリンクは再度閉鎖に。地方のリンクを転々とした羽生が自分のリンクに戻れたのは、4カ月後だった。

「自分の滑りで、少しでも仙台が元気になれば」と語り続けた11-12年、17歳で初出場した世界選手権(仏ニース)で羽生は伝説になった。ショート7位と出遅れたが、フリー「ロミオ+ジュリエット」の迫真の演技で2位につけ、銅メダルを獲得。「ニース落ち」(ニース大会の演技で大ファンになること)という言葉が流行するほど熱狂的なファンを増やした。

コーチをカナダのブライアン・オーサーに変更したのが12年。自分はライバルがいたほうが伸びるタイプと分析し、習得したい4回転サルコウが跳べるハビエル・フェルナンデスと同門になるためだ。

この年、日本フィギュア界に転機が訪れた。羽生は全日本選手権のショートで、絶対的エースだったバンクーバー五輪銅の髙橋を超えて1位につける。髙橋は素晴らしい演技でフリー1位となったが逆転できず、羽生が初めて全日本王者になった。

ソチ五輪前年に羽生のライバルと目されたのは、髙橋とカナダのパトリック・チャンだった。大きな国際大会で優勝経験のないことが羽生の弱点とみられていたが、五輪直近のGPFは髙橋がけがで辞退したためチャンと一騎打ちに。羽生はチャンを倒し、髙橋の出場した全日本も制した。

ソチ五輪ではショートで100点超を獲得し、世界最高得点を更新。フリーはベストスコアより15点近く低かったものの、19歳で金メダルを獲得した。

五輪の金で一般にも知られるようになると、羽生の人気はさらに爆発。羽生が出場する試合やショーのチケットは争奪戦となり、ファンは羽生見たさに海外まで足を運んだ。旅行会社は、こぞって海外観戦ツアーを企画した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中