最新記事

BOOKS

「死にたい」と言った私を救った、母の「意外な言葉」──サヘル・ローズさん

2022年4月21日(木)19時37分
flier編集部

220419fl_ivs02.JPG

flier提供

でも、言葉の刃で刺されて本当にしんどかった。物理的な暴力のほうが傷やあざが残るので、相手もやったことに気づけますが、暴力的な言葉や無視などは精神的苦痛でしかなく、目に見える痕跡が残りません。そのうち実際に暴力を振るわれ、持ち物に落書きされるなどエスカレートしていきました。

── 中学3年のときですね。

はい。もう感情が抑えられなくなりました。それまでは、学校から家まで泣いて泣いて走って帰ってデトックスをしていました。それで、お母さんが仕事から帰ってきたときに「優等生のブレーカー」をあげていました。そして「学校はどうだった?」と聞かれれば、「すっごく楽しかったよ。○○ちゃんと遊んでね......」と架空のストーリーを仕立て上げて生きていました。それをし過ぎて結局サヘルという人間を見失い、自分自身を拒絶するようになりました。

一方で、お母さんは毎日必死で働き、朝から晩までトイレ掃除の仕事をして疲れ切って帰ってきていました。そんな状態では相談しづらいし、日本語もおぼつかないお母さんに宿題のことを聞けない。成績は下がる一方でした。

どうしても親に気を遣ってしまっていました。お互いに「着ぐるみ」を着てよく見せようと強がった生活をしている親子でした。

愛溢れる「いいよ」

── その苦しい状況をどうやって乗り越えたのでしょうか。

そうした取り繕った自分に限界がきて、あるときお母さんに「死にたい」と打ち明けました。お母さんは意外にも「いいよ」と言って、私の感情を全部受け止めてくれたのです。「いいよ、でも私も連れて行って」と。

そう言われて私たちはハグをしました。その時、抱きしめたお母さんの体が皮と骨で、あばら骨が触って分かるぐらいだったんですね。孤児院から引き取ってくれたときのお母さんの手は、本当にきれいでふくよかだった。それなのに、必死で働いて、女性一人で何もかも分からないこの国で生きるうちに、骨と皮と血管でぼろぼろの手になっていました。

── 相当ご苦労されてきたのですね。

ええ。その瞬間、すごくいろいろと頭に浮かびました。

私は死ぬことがイジメっ子たちへの復讐と思っていましたが、本当にこれでいいのか、と。ここまでしてくれた目の前の養母に、何も恩返しができていない。それどころか彼女の人生まで道連れにしようとしている、そう率直に感じました。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中