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社会現象になった衝撃のシーンに繋がる物語、『ザ・ソプラノズ』が映画で復活

Sopranos’ Fan Service

2021年11月6日(土)16時45分
デ ーナ・スティーブンズ(映画評論家)
『ニューアークの聖人たち』

WARNER BROS.ーSLATE

<誰もが動揺した衝撃のラストから14年。全米が熱狂したマフィアドラマの金字塔が、映画『ニューアークの聖人たち』で復活>

『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』をリアルタイムで追っていた人は、2007年に放映された最終話をどこで見たかを絶対に覚えている。

筆者はニューヨーク州キャッツキル山脈のホテルで、仕事仲間と見た。夕食後にホテルのスタッフがわざわざ大型テレビを運んできたほど、1999年からHBOで6シーズン続いたドラマのフィナーレは大事件だった。

ラストシーンで、マフィアの首領である主人公のトニー・ソプラノ(ジェームズ・ガンドルフィーニ)は家族とダイナーで食事をしている。すると殺し屋のような、いかにも怪しい男が席を立ち──。

それまでかかっていたジャーニーの挿入歌「ドント・ストップ・ビリービン」がぷつりと途切れ、テレビ画面が真っ暗になった。停電だろうか。山奥だから、テレビの映りが不安定でも不思議はない。

だがテレビを見れば、エンドロールが流れている。誰もが動揺してどよめき、激論が始まった。今のは放送事故なのか。それとも制作者のデービッド・チェースが観客を突き放すために、わざと唐突に終わらせたのか。

今なら誰かが即スマホで情報を検索するだろう。一杯やりながら議論を交わすことができたのは、ソーシャルメディアがまだそれほど広く普及していなかったからだ。

息子の初々しさに注目

翌日シリーズが本当に完結したことをメディアが報じ始めると、敬服の念が湧いた。主人公の生死も明らかにせず国民的ドラマに幕を下ろすとは、大胆にもほどがある。

今から思えばあの幕引きは、トニーが権力と金と暴力に溺れたのと同じように裏社会を描くドラマにうつつを抜かした視聴者への、見事な絶縁状だった。掟破りな結末の後で、続編ができる可能性は薄い。

しかし、前日譚ならいける。10月1日、チェースが製作と脚本を担当した映画『ニューアークの聖人たち』(The Many Saints of Newark )が公開された。

冒頭のナレーションはわざとらしくていただけない。トニーの甥で手下のクリス・モルティサンティ(マイケル・インペリオリ)が、あの世から自分の最期を語るのだ。

続いて舞台は、1967年夏のニュージャージー州ニューアークへ。トニーはまだ中学生だ(子役のウィリアム・ルドウィグが素晴らしい)。

マフィアの構成員である父ジョニー・ボーイ(ジョン・バーンサル)が暴行罪で投獄され、トニーと姉のジャニスは母性をかけらも感じさせない陰気な母リビア(ベラ・ファーミガ)の下で育つ。

だが、トニーには父親代わりがいる。いずれクリスの父となる、おじのディッキー(アレッサンドロ・ニボーラ)だ。穏やかな物腰の裏に暴力性を秘めたディッキーは、違法富くじを仕切っている。

その父のハリウッド・ディック(レイ・リオッタ)は地元マフィアのボスで、シチリア島から連れ帰ったばかりの若妻ジュゼッピーナ(ミケーラ・デロッシ)がいる。

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