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日本植民地から戒厳令、民主化時代へ 台湾の人気映画が物語る台湾社会と台湾人の変遷

TAIWAN IN TAIWAN CINEMA

2021年10月7日(木)20時15分
赤松美和子(大妻女子大学比較文化学部准教授)

その後、台湾映画は多様な視点から饒舌に台湾史を語り始める。85年に高校生だった男女3人の27年間を描いた楊雅喆監督の『GF*BF』(12年)では、大学生たちが民主化を求めた90年の野百合学生運動が描かれる。友情に異性愛と同性愛を掛け合わせ、解けない三角関係の切なさが織り込まれた結末は、オルタナティブな家族像を提示し、同性婚合法化の未来を予感させる。

最後に紹介する傅榆監督の『私たちの青春、台湾』(17年)は、14年のひまわり学生運動のリーダーと、台湾の民主主義に興味を持ち社会運動に参加する中国人留学生を追ったドキュメンタリーだ。ひまわり学生運動は、台湾社会が若者を主権者として重視していくきっかけとなったと同時に、スクリーンの内外でチャイナファクターが顕在化した出来事でもあった。

この作品は台湾版アカデミー賞といわれる金馬奨で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞したが、「いつか私たちの国が真の独立した個として見られることが、台湾人として最大の願いです」という傅監督の受賞スピーチは物議を醸し、中国からのゲストたちは受賞後のパーティーに参加拒否した。

翌19 年から中国最高の映画祭である中国電影金鶏奨が金馬奨と同じ時期に開催されるようになり、中国からの作品および映画関係者の参加は事実上不可能となった。台湾映画界は今、チャイナファクターを前に新たな道を探りつつある。

※記事のタイトルの一部を変更しました。

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