最新記事

台湾映画

台湾で政治映画がタブーな理由

2018年1月5日(金)16時40分
アンソニー・カオ(映画評論サイト「シネマエスケーピスト」創設者)

台北の繁華街・西門町に掲げられた人気映画の広告 KREANGCHAIRUNGFAMAI/ISTOCKPHOTO

<韓国と違い、中国への商業的配慮と不十分な「過去の清算と和解」が足かせに>

台湾と韓国はどちらも30年前に独裁体制から民主主義に移行した「アジアの虎」だ。両者には共通点も多いが、決定的に異なる分野が1つある。制作する映画やテレビ番組のジャンルだ。韓国では政治をテーマにした大作映画が定期的に公開されるが、台湾ではほとんどない。

韓国の17年の興行収入トップは『タクシー運転手~約束は海を越えて~』。光州事件の取材に来たドイツ人ジャーナリストを乗せたタクシー運転手の実話に基づく作品だ。全斗煥(チョン・ドゥファン)将軍の軍事独裁に抗議する市民数百人を韓国軍が殺害した光州事件は、80年5月18日に起きたので「5.18」とも呼ばれる。

『タクシー運転手』が台湾で公開されると、地元メディアは「韓国版2.28」と呼んだ。2.28とは、47年に中国国民党軍が同党の支配に反発する本省人(戦前からの台湾住民)最大約3万人を虐殺した事件のこと。弾圧の開始が2月28日だった。

5.18と2.28は、どちらも民主化の歩みの中で起きた最大の悲劇だ。当然、台湾のネット社会では、「台湾で2.28についての大作映画はいつできるのか」という声が上がり始めた。

実は2.28を描いた台湾映画は既に1本ある。台湾ニューシネマを代表する侯孝賢(ホウ・シアオシェン)監督の『悲情城市』(89年)だ。

ただし、この映画は『タクシー運転手』と大きく違う。超大作というよりアート作品であり、直接には2.28の残虐行為を描いていない。誰もが事件のことを知っているが、映画の中で公然と語られることはない。

いま見ても、『悲情城市』は独裁体制の過去に苦悩する台湾の姿が最もよく表現された作品だ。それ以来、誰も2.28についての映画を撮っていない。

韓国はまさに対照的だ。光州事件を取り上げた映画は『タクシー運転手』を含め、少なくとも6本ある。近年の政治史を題材に取った映画やテレビ番組はさらに多い。

79年の朴正熙(パク・チョンヒ)大統領暗殺を風刺した『ユゴ 大統領有故』(05年)のように、政治的事件を直接テーマに据えた映画もある。昨年4月に韓国公開の『ザ・メイヤー 特別市民』は李明博(イ・ミョンバク)元大統領を思わせる、大統領への野心を抱くソウル市長が主役の作品だ。11年の『シティーハンター in Seoul』のような若い女性向けのテレビドラマでも、独裁体制の過去を主要な筋書きに使っている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

豪サントス、ダーウィンLNGプラント一時停止 設備

ビジネス

中国の再生エネ株に投資家殺到、「石油ショック」で需

ワールド

豪州、将来の鉱物供給危機回避で重要な役割=IEA事

ワールド

フィリピン、原油高でインフレ率2桁の可能性も 成長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 2
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 3
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」した──イスラエル首相
  • 4
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 5
    「胸元を強調しすぎ...」 米セレブ、「目のやり場に…
  • 6
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 7
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 8
    スウェーデン次期女王ヴィクトリア皇太子、陸軍訓練…
  • 9
    「買ったら高いじゃん?」アカデミー賞会場のゴミ箱…
  • 10
    「カメラの目の前」で起きた爆発の瞬間...取材中の記…
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中