最新記事

人生を変えた55冊

NEWS・加藤シゲアキが愛する『ライ麦畑』と希望をもらった『火花』

2020年8月6日(木)12時15分
加藤シゲアキ(タレント、作家)

本誌「人生を変えた55冊」特集(2020年8月11日/18日号)表紙

<自分はジャニーズでありながら本を書いて、時々「それでいいのかな」と考えたりするんです――そんな彼に『火花』は希望をくれた。小説を読む感動の原体験、「結局、好き」な1冊......。加藤シゲアキの価値観を揺さぶった5冊を紹介する。本誌「人生を変えた55冊」特集より>

僕にとっての人生の一冊、小説を読む感動の原体験となっているのが『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(J・D・サリンジャー、『ライ麦畑でつかまえて』の邦題もあり)。そこで描かれているのが自分のことのように感じられ、共感し、とにかく没入してしまった。高校生の主人公ホールデンと同じ10代の終わり頃に読んだのも大きいかもしれない。彼のほうが少し年下ですが、当時は自分も社会との関係に息詰まる......じゃないですけど、悩んでいて。


『キャッチャー・イン・ザ・ライ』
 J・D・サリンジャー[著]
 邦訳/白水社

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

ホールデンはわがままでひねくれているわりには、真っすぐな愛情もある。そういうバランスに共鳴したんでしょうね。村上春樹さんの翻訳版だったので、リズムや文体の読みやすさもあったかなあと思う。
2020081118issue_cover200.jpg
それまで海外文学を読んでいなかったわけではないが、全く違う文化の中にいてもこんなに共鳴することがあるんだ、と衝撃を受けたという意味で、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』は確実に僕の人生に影響を与えた。ニューヨークに行って作品に出てくる場所を巡ったりもしたし、単行本と文庫と英語のペーパーバック......というように何冊も持っている。訳語がどうなっているんだろうと確認したりするほど、はまった。

あまりにポピュラーですが、作家として似たようなものを書こうとすら思わないほど特別な一冊です。

2冊目は、又吉直樹さんの『火花』。僕の小説デビュー作(『ピンクとグレー』)は芸能界の話で、又吉さんもお笑い芸人の話を書かれている。これを読んだとき、僕はもう何作か書いていて、この先何を書いていくべきだろうと考えていたんですけど、やっぱりその人しか知らない世界を書くことの強さ、そのリアリティーは作品に対して誠実だなと、改めて思った。


『火花』
 又吉直樹[著]
 文藝春秋

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

自分はジャニーズでありながら本を書いて、時々「それでいいのかな」と考えたりするんです。「いっちょかみ」している感じに映るのではないだろうか、と。でも、そんな自分にしか書けないものがあると、『火花』はある意味で希望をくれた。今年のアカデミー賞を受賞(作品賞、監督賞ほか)したポン・ジュノ監督ではないですが、「最も個人的なことが最もクリエーティブだ」と思えた。

もちろん作品としても面白くて、芥川賞を取り、今の人に届く文学性と同時にエンターテインメント性もある。コンビの話でもあるので、僕としてはいろんな意味で感情移入しやすかった。

【関連記事】大ヒット中国SF『三体』を生んだ劉慈欣「私の人生を変えた5冊の本」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中