最新記事

韓国

韓国、若手作家が文学賞を告発 商売か芸術家の尊厳か

2020年1月13日(月)13時00分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネーター)

李箱文学賞を告発した若手作家のキム・グムヒ氏 JTBC News / YouTube

<日本同様に出版不況が厳しい韓国で、文学賞の内定を作家が拒否する事件が起きた。受賞すれば一躍有名になるのに一体なぜ?>

韓国で3大文学賞と言えば、「東仁(トンイン)文学賞」、「黃順元(ファン・スンウォン)文学賞」、そして「李箱(イ・サン)文学賞」だ。そして今年も1月上旬に李箱文学賞受賞者が発表されようとしていたのだが、突然延期を余儀なくされた。一体何が起こったのか?

李箱文学賞は、毎年前年1月から12月までに発表された文学作品から、中編・短編を中心に大賞1名と優秀賞5名を決めることになっている。しかし、今回受賞対象に内定した6名のうち3名が受賞拒否を公にした。

ことの発端は、優秀賞を受賞予定だった作家キム・グムヒ氏が、1月4日に自身のSNSへ載せた告発だった。キム氏によると、李箱文学賞を主催する出版社の文学思想社は、受賞者に対し「3年間作品の著作権を出版社に譲渡しなければならない」という受賞条件を提示されたという。この条件にキム氏をはじめ受賞予定だったチェ・ウンヨン氏、イ・ギホ氏の計3名が受賞拒否の意思を表明した。

また、この3名を応援する立場から、以前優秀賞(2007年度)と大賞(2008年度)を受賞したことがある作家クォン・ヨソン氏も、SNSで自分の受賞体験を公表した。それによると「当時新人作家だった自分は、(受賞後の)契約条件がどんなものか知りもしなかった」「正式契約をする際、担当者から『事前に連絡された契約内容以外に、義務的にこの出版社から今後2作品の本を出版しなくてはならない』と言われた」という。

これに対し出版社側は、「これまで大賞の1作品にのみ3年間契約を条件にしていたが、去年から手違いもあり優秀賞5作品も3年間契約の条件が適用された」と説明している。

李箱文学賞の受賞作は毎年1冊の本にまとめられ「李箱文学賞作品集」という名前で発売されている。出版社としては、作品集を発売して3年間は販売売り上げを独占したいため、作家が他社から受賞作を出してほしくない、というのが本音なのだろう。

日本でも毎年芥川賞や直木賞の受賞者が発表されると、ニュースで話題になるように、李箱文学賞を受賞したとなると、その作品と作家の知名度ははね上がる。「それだけの機会を与えるのだから、本の利益を保証してほしい」という出版社の言い分と、「自分の作品は我が子同然である。作品の権利は作家にある。著作権は渡さない」という作家の気持ちがすれ違い、対立している状態だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物が小幅安、市場は対ロ制裁や関税を引き続き注

ワールド

米、メキシコ産トマトの大半に約17%関税 合意離脱

ワールド

米、輸入ドローン・ポリシリコン巡る安保調査開始=商

ワールド

事故調査まだ終わらずとエアインディアCEO、報告書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 10
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中