最新記事

日韓関係

韓国ボイコットジャパンは競馬にまで 「コリアカップ」日本馬排除でなくしたものとは?

2019年11月30日(土)11時30分
山本 智行(共同通信社記者) *東洋経済オンラインからの転載

これは、KRAにとっても苦渋の決断だったことは、容易に想像できる。筆者はそれまでKRA関係者と何度か連絡を取り合っていたが、日韓関係が悪化するなかでも、「スポーツや文化、観光などと政治とは別物」としていた。一方で「いまはネットでつながっていて、その境界が曖昧になっている」と危惧してもいたのは事実だ。

7月中旬には別件でソウルを訪問したが、「ノージャパニーズ運動」の広がりと過激さを見て、より一層不安な気持ちにかられた。KRA側も「日に日に悪いニュースばかりで影響が広がるか見守っています。競馬ファンからもこれまでになかった意見、文句が出始めています」と慎重な姿勢になっていた。

その矢先、ショッキングな一報が流れたのは8月11日。ついにKRAが日本馬の招待見送りを発表したのだ。舞台裏では「日本の関係者に事情を説明し、謝りに行く話もあった」という。最終的には文在寅(ムン・ジェイン)政権の同調圧力と国民感情を忖度したものだろう。

東西冷戦の下、繰り広げられた過去のオリンピックのボイコット合戦しかり。スポーツの舞台に政治は持ち込まないといいながら、同じことがしばしば繰り返されるのはいかがなものか。開催していれば、藤田菜七子がコパノキッキング(騸4=栗東・村山明厩舎、11月のJBCスプリントでは2着)で、コリアスプリントに参戦するプランもあっただけに幻となったのは残念でならない。

東亜日報は「チャンス」と報道、各国記者には残念がる声も

レース当日のソウル競馬場は一瞬、そんなことを忘れさせるほど台風一過の秋晴れとなった。だが、日本馬不在の状況に、心までは晴れ晴れとはいかなかった。それは欧米の海外メディアも同じ。なかには「政治的な話はしたくないよ」と筆者に"取材拒否"の記者もいたが「とても悲しい。私はどちらの国も人々も馬も好きです。貿易などの問題を抱えているのでしょうが、早く仲直りして交流を再開してほしい」という意見や「その国が決めることに反対はしません。もちろん、さまざまな国からさまざまな馬が参戦する方が正しい」という声を聞いたことを書き記しておきたい。

現地メディアはどう伝えたか。韓国の有力紙「東亜日報」の日本語版は、コリアカップについて「今大会には韓国、アメリカ、英国、仏国、香港の5カ国が参加する。目立つのはコリアカップで3年連続優勝、コリアスプリントで最近2年連続優勝した日本が欠場していることだ。日本は地理的に近いという利点を積極的に活用して、元年から優秀な馬を大量に出場させて賞金を独占したが、最近悪化している韓日関係を勘案して、今回は招待対象から除外した。主催国の韓国としては初めて優勝まで狙えるチャンスといえる」と伝えた。

同紙は有力馬については、今年3月のドバイワールドカップに出走し11着だったドルゴン(牡5歳)を推奨。KRAのキム・ナクスン会長が「コリアカップ、コリアスプリントは海外出場馬のレベル、賞金規模などで世界的にも遜色のない大会だ。国家代表の馬が善戦できるように応援をお願いする」と語った、とも報じた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ436ドル安、CPIや銀行決算受

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中